100:猫宮[saga]
2012/11/16(金) 19:20:00.33 ID:hyTDBNXf0
▽
「おかえりなさい、梓ちゃん」
帰宅した私を憂ちゃんは笑顔で迎えてくれた。
「ただいま」と私も多分出来る限りの笑顔で返して、すぐに自分の部屋に戻った。
憂ちゃんは何かを言いたげではあったけれど、私はそれに反応してあげられる余裕が無かった。
疲れた……んだと思う。
精神的にじゃなくて、肉体的に。
今日は一人で車に気を付けながら桜高まで行って、それからあの子の家まで走って行ったんだ。
体力には自信がある方だけど、これは流石の私でも疲れるよ。
荷物を置いてベッドの上に横になると、そのまま寝入ってしまいそうになる。
疲れ過ぎて、今は出来るだけ何も考えたくない。
何かを考え始めてしまったら、悪い事しか考えなくなりそうで嫌だった。
帰ってばかりだけど、食欲も無いし、もう眠ってしまおう。
一日くらい夕食を食べなくたって、別に命には何の別状も無いよね。
そう言えば、この『石ころ帽子』の状態なら、いくらお腹が空いても死ぬ事は無いんだっけ?
だったら、これから期限の最後の日まで何も食べなくたって別に……。
と。
「梓ちゃーん?」
不意に自室の扉が叩かれ、私はベッドから身を起こした。
響いたのは憂ちゃんの声だ。
憂ちゃんどころか誰の相手をする気力も無かったけれど、無視するわけにもいかない。
「どうしたの?」と私が小さく訊ねると、「ごめんね、開けてくれる?」という返事があった。
私が首を捻りながら自室の扉を開けると、
扉の向こうにはお盆いっぱいに料理を載せた憂ちゃんが立っていた。
エビフライ、ステーキ、スープ、サラダ、フルーツポンチ。
お盆の上に載っていたのは、そんな感じのとても豪勢な料理だった。
「ど、どうしたの、これ?」
私がちょっと驚いて訊ねると、憂ちゃんは柔らかく苦笑して頭を下げた。
「えへへ、ごめんね、梓ちゃん。
今日は一人だったから、いつものお礼に梓ちゃんに何かしてあげたいなって思ったんだ。
それで、それなら美味しい料理を作ってあげよう、って頑張ってみたんだけど……。
ちょっと作り過ぎちゃったみたい。ごめんね、梓ちゃん」
「いや、それは別にいいんだけど……」
憂ちゃんを部屋の中に通しながら、私はそう呟く。
憂ちゃんが私のために何かをしてくれるのは、勿論嬉しい。
私のために頑張ってくれてるんだから、憂ちゃんが謝る必要なんて全然無い。
食欲はあんまり無いけど、少しくらいは食べてもいいかもしれないって思う。
「ちょっと待ってて。
今から料理を置くテーブルを用意するから」
言って、テーブルを用意しながら、思う。
憂ちゃんは誰かのために一生懸命になれる子なんだな、って。
私だけじゃない。
大好きなお姉さんの唯さんは勿論、
軽音楽部の人達の事も凄く大切に思ってるみたい。
知り合った人達全員を大切に思ってて、誰かのために動く事を苦にもしないで。
唯さんと早くまた話せるようになりたいはずなのに、私のお願いが決まるまで待ってくれて。
本当に……、優しくて……、優しくて……、優し過ぎる子なんだよね……。
こんな……私なんかとは違って……。
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