過去ログ - 梓「サナララ」
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101:猫宮[saga]
2012/11/16(金) 19:20:35.05 ID:hyTDBNXf0
「冷蔵庫の物を使い過ぎちゃってごめんね、梓ちゃん。
私のお小遣いで補えそうなら、家からいくらか持って来ようかな……」


「いいってば。ありがと、憂ちゃん」


憂ちゃんと話しながら思う。思ってしまう。
私は、そう、自分の事しか考えてない。
あの子の夢を知った時、私はあの子の未来より自分の事を考えてしまっていた。
これからどうやって音楽を続けていけばいいんだろう、ってそればかり考えてた。
あの子の夢を受け容れて応援するべきなのに、私は私の事しか見えてなかった。
今後、受験して、私は多分、桜高に入学する。
それで桜高で音楽関係の部に入部する事になるとして、私は上手くやっていけるの?
私はあの子と仲良くなって音楽を演奏するようになるまで、半年掛かった。
私はそれを繰り返せるんだろうか?
何とか繰り返して、誰かと音楽の道をまた歩いて行くようになったとする。
でも、私の実力じゃ、またあの子と迎えた結末を繰り返す事になるんじゃないのかな……。
私に実力が無いから、私が天才じゃないから、誰も引っ張る事が出来なくて、同じ結末を迎える?
同じ喪失を繰り返すの?


「あ、そうだ、梓ちゃん。
悪いんだけど、ちょっと待っててくれるかな?」


料理を配膳し終わった憂ちゃんが、何かを思い出したように私の部屋から出て行く。
お箸かスプーンでも忘れたんだろうか。
別にどうでもよかった。
これ幸いと私はまた色んな事を考え始める。
考えたくなかったはずなのに、湧き上がる思考を止める事が出来ない。

私は天才じゃない。
ギターを弾くのが周囲の人よりちょっと上手いだけ。
大きな視点で見れば、全くお話にならない実力なんだ。
将来的に音楽をやっていくのなんて無理だって分かり切ってる。
だったら、今後のためにも私が望むのは、たった一つの事じゃないのかな?
『一生に一度のお願い』って降って湧いたチャンスを生かす方法なんてきっと一つだけ。
やっぱりお願いするべきなんだ。
私の将来のために一番必要なもの……、『音楽の才能』を。
そうすれば私と音楽をする皆を不安にさせる事も無い。
私の才能で皆を引っ張って行く事が出来る。
ひょっとしたら、あの子だって戻って来てくれるかもしれない。
皆で夢を掴めるんだよね……。

でも……。
でも、そんなの……。


「お待たせ、梓ちゃん。
ちょっと梓ちゃんに見てほしいんだけど……」


憂ちゃんが扉を開いて私の部屋に戻って来る。
その手に持っていたのはお箸でもスプーンでもフォークでもなくて……。

憂ちゃんが、
持っていたのは、
私の、
今は見たくもなかった、
ギターだった。


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