119:猫宮[saga]
2012/12/12(水) 19:04:29.74 ID:re/6Yyqf0
▽
私は憂ちゃんの胸の中に抱き締められて、
しばらくそのままの体勢でお互いの体温を感じていた。
私を抱き締めている間、憂ちゃんは私に何も訊ねなかった。
私が急に涙を流した理由も、大声で叫んだ理由も訊ねずに私の頭を撫でてくれた。
同い年の女の子に頭を撫でられるのなんて恥ずかしい。
そんな気持ちは勿論あったけど、憂ちゃんに撫でられていると不思議と心が落ち着いた。
もしかしたら、私は自分が思ってる以上に子供なのかもしれない。
ううん、私は結局、何も分かってなかった子供だったんだよね……。
ぶつけ合うって程じゃないけど、憂ちゃんと話せて、
少しでも本音を交わせて、やっと少しだけ分かりかけてきた気がする。
私が本当に欲しかったものは、ひょっとしたら……。
「ねえ、憂ちゃん……」
憂ちゃんに頭を撫でられながら、私は小さく、
でも、精一杯の決意を込めて、口を開いてみる。
まだ完璧には固まっていない想い。
自分自身でもはっきりしていない気持ち。
それをもっと確かにするためにも、声に出して想いを言葉にしようと思った。
自分自身の気持ちを、自分の耳と憂ちゃんの耳に届けたかった。
「うん、何?」
憂ちゃんが手の動きを止め、私の頭の上で頷いたのを感じる。
私は深呼吸をしてから、気持ちを声に乗せていく。
「私ね、将来、音楽が関係する職業に就きたかったんだ。
ギターを弾くのは周りじゃ結構上手な方だったし、上手に演奏出来ると嬉しかったから。
だから、ずっと音楽を続けたくて、そんな夢を持ってたの。
思い返してみると、何だか単純でちょっと恥ずかしいけどね」
「ううん、素敵な夢だと思うよ、梓ちゃん」
「ありがとう、憂ちゃん。
でもね、最近、本当にその夢でいいのかな、って思うようになってたんだ。
私は本当に音楽を続けたいのかなって」
「……どうして?」
「私ね、一緒に演奏する友達が居たんだよね。
あんまり器用な子じゃなかったんだけど、セッションは楽しかったし、
たまに驚かされるくらい上手な演奏を聴かせてくれる事もあったんだ。
本当に楽しかったなあ……。
酷い演奏になる事も多かったけど、とっても楽しかった……。
ずっと二人で音楽を続けられたらいいな、って思ってたんだ……。
でもね、夏休み前くらいにね、その子に言われたの。
『今年は受験だし、一学期で音楽の練習は中断だね』って。
勿論、受験は大事だと思ってるよ。
でも、勉強の合間に少しくらい二人で演奏出来るはずだって思ってた。
そのくらいの時間の余裕くらい、あるはずでしょ?
だから、ショックだったんだよね。
私達の夢は受験なんかに邪魔されるくらい小さなものだったの?
って、その子に問い詰めたい気持ちでいっぱいになっちゃうくらいに。
だけど、問い詰められなかったんだ。
怖かったんだ、その子から本当の事を聞くのが。
『高校生になってからも演奏する暇は無いと思う』、
なんて言われたらどうしようって……。
その子、最近、他の夢を見つけたみたいだったから余計にね……。
でも、そんなもやもやを抱えたままなのも辛くて、
耐えられなくなって来て、それで今日、その子の家に確かめに行ってみたの。
その子の気持ちを……」
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