128:猫宮[saga]
2012/12/15(土) 19:07:09.88 ID:UkOXPRkn0
▽
二人で笑顔を向け合った後、私はふと思い付いて、
憂ちゃんに私のギターを軽く弾いてもらう事にした。
憂ちゃんは少し恥ずかしがっていたけど、私が強く頼むと折れてくれた。
私が夢を見つける手伝いが出来るなら……、と恥ずかしそうな笑顔を浮かべて。
我ながら我儘な事を言っちゃったなあ、とは思うんだけど、
憂ちゃんの演奏はどうしても聴いておきたかったんだよね。
無理を言って聴かせてもらった憂ちゃんの演奏はやっぱり上手かった。
劇的に上手いというほどじゃないけど、少なくとも素人の演奏には思えない。
私がギターを弾き始めた頃はもっともっと下手だったしね。
憂ちゃんが本気で音楽に取り組むようになったら、
私なんか簡単に抜かれてしまって、すぐに手の届かない存在になっちゃう気がする。
でも、多分、憂ちゃんが音楽で大成する事は無いんどゃないかな、と思う。
憂ちゃんが叶えたい夢は、音楽の道とは別の場所にあるから。
もっと大切な物が憂ちゃんの胸の中にはあるから。
そして、多分、私も……。
それにしても。
憂ちゃんは本当に優しい子なんだ、って思った。
自分自身で自分を優しい子だと思いたいために、
自分の優しさを主張してくる子はたまに見かけるけど、憂ちゃんはそうじゃない。
例えば、そう……。
憂ちゃんが初めて私のギターを手に取った時、こう言っていた気がする。
『ギターをチューニングするものだなんて知らなかった』って。
勿論、チューニングという行為自体は知ってたんだろうけど、
日常的に行うものだとは知らなかった、って意味の言葉なんだと思う。
それくらい憂ちゃんはチューニングを知らなかったんだよね。
でも、今日、憂ちゃんはこう言っていた。
『梓ちゃんのギターのチューニングをしてみたんだ。
お姉ちゃんのギターでした事があるだけだから、ちょっと自信は無いんだけど……』
矛盾した言葉。
憂ちゃんらしくない嘘の言葉だった。
ギターのチューニングをよく知らなかったという言葉と、
唯さんのギターのチューニングをした事があるという言葉。
私は後者の方が嘘なんだと思ってる。
憂ちゃんはきっと私にギターを弾いてもらいたくて、一人でチューニングをしたんだ。
唯さんのギターのチューニングをした事があるって嘘を吐いてまで。
多分、私の部屋に置いてあるギターの本を読んで、四苦八苦しながら……。
それでも、憂ちゃんはそれを私に報告しなかった。
私に気を遣わせないようにしたかったんだろうな、って思う。
あくまで自然に私にギターを弾いてもらいたくて……。
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