161:猫宮
2013/02/04(月) 18:35:21.87 ID:44bsrsPH0
その二人の言葉を聞くと、クラスメイトらしい女の人が爽やかな笑顔を見せた。
同時に、周囲に居た数人の生徒達も声援を上げる。
「了解だよ、りっちゃん! ライブ、頑張ってね!」
「田井中さんのドラム捌きを見るの、楽しみにしてるよ!」
「こっちはこっちで頑張るから、琴吹さん達も頑張って!」
多くの声援に囲まれ、律さん達が照れ笑いを浮かべる。
おお……、律さんと紬さんってこんなに人気があったんだ。
クラスメイトの皆さんもまだ軽音楽部の演奏を聴いた事は無いはずだから、
これは単に律さん達の人望って事なんだろうな。
もしも私が何処かの高校の学園祭でライブをする事になった時、
私はこんなに周りのクラスメイトから賑やかに見送ってもらえるだろうか。
……んー、悔しいけどちょっと無理かもしれない。
自分で言うのも何だけど、私はあんまり人付き合いの上手い方じゃないもんね。
でも、それが分かった今からなら、少しは変えていけるかもしれない。
ううん、変えなきゃいけないよね。
それがこの数日、憂ちゃんと過ごして、私にもやっと見えて来た事なんだ。
「律さん達と一緒に行く?」
憂ちゃんが首を傾げて私に訊ねる。
もうちょっと学園祭の雰囲気を感じていたい気持ちはあったけど、
当初の目的をおざなりにしてても駄目だよね。
私が桜高に来た目的は軽音楽部の皆さんのライブを見届けるため。
そして、私の気持ちに最後の決着を付けるためなんだから。
私は頷いて、憂ちゃんの瞳を見つめた。
「うん、そうだね、憂ちゃん。
律さん達と一緒に部室に行こうよ」
私の言葉を聞くと、憂ちゃんは少し嬉しそうな表情を見せた。
何だかんだと言っても、憂ちゃんもお姉さんの唯さんの事が気になってるんだろう。
特に唯さんは喉の嗄れも治っていないのに、飄々と楽しそうだった。
こんな状況でも笑ってた……。
憂ちゃんはきっと唯さんが笑ってる理由を分かってるはずだ。
分かってるからこそ、私に優しい言葉を掛ける事も出来たんだと思う。
だけど、頭では分かってても、心配する気持ちが少しはあるのも確かなんだろう。
自分がライブをするわけじゃないのに……、
ううん、自分がライブをするわけじゃないからこそ、
見守る事しか出来ないからこそ、不安を忘れられないんだろうな……。
「お化け屋敷、中々好評だったなー」
「うん! すっごく楽しかったよね!」
私達の目の前では、律さん達が楽しそうに歩いている。
さっきまでやっていたらしいお化け屋敷の事なんか話しながら、
不安な気持ちなんか全然感じてないって様子の眩しい笑顔を浮かべて。
律さん達もライブに対する不安感なんて、全然持ってないみたい。
ううん、そうじゃないよね。
律さん達だって、ライブを成功させられるか不安な気持ちはあると思う。
本当は胸がドキドキしてるのかもしれない。
でも、律さん達は笑うんだ。
それはきっとライブに対する不安なんかよりずっと……。
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