過去ログ - 梓「サナララ」
1- 20
18:猫宮[saga]
2012/07/29(日) 18:12:56.56 ID:G1XGi7PY0
「やっぱり……、いきなりこんな事を言われても戸惑っちゃうよね。
私もそうだったから分かるよ、梓ちゃん。
逆にね、こんな話をすぐに信じられたら、私の方が心配になっちゃうもん」


それはそうだ。
もしこの平沢さんの話が本当だったとして、
願いを叶えてもらった私が『ナビゲーター』になった時に、
次の『チャンスシステム』に選ばれた誰かにこの話をすぐ信じられたら、私だって逆に不安になる。
こんな話、そう簡単に信じられるはずがない。

でも、気が付けば私は苦笑してしまっていた。
私の中の複雑な葛藤が滑稽に思えたからだ。
私の頭の中の理性は平沢さんの話を否定している。
そんな荒唐無稽な話が存在するはずがないって警告している。

同時に。
私の心は完全に平沢さんの言葉を信用していた。
何故だか上手く説明出来ないけど、平沢さんの言葉を真実だって受け止めている。
頭じゃなくて、心が平沢さんの全てを信用してるんだよね……。

不思議な感覚だった。
頭で思う事と心で感じる事が逆だって経験が今まで無かったわけじゃない。
例えば立ち入り禁止の屋上に行く時なんか、
頭で屋上に行っても誰も気にしないから大丈夫と思いながら、心では後ろめたい気分を感じたりしていた。
そんな風に、人間には頭と心がそんな相反した事を感じてしまう事が結構あるはずだと思う。

だけど、こんな感覚はやっぱり初体験だ。
『頭では信用するべきだって分かってるが、俺の心と本能がこいつを信用するのを拒絶している』
っていうシーンは、映画や小説でよく目にする。
今の私の状況はそれとは全く逆だった。
頭で疑うべきだと分かってるのに、心で完全に信用しちゃってる、なんて。
自分でも分かるくらいに滑稽で、何だか笑えて来る。
ひょっとすると、それも『チャンスシステム』の効能みたいな物なのかな……?
って、そんな風に考えちゃう事自体、もう平沢さんの事を信用しちゃってるって証拠なんだろうなあ……。


「あ、そうだ!」


両の手のひらを胸の前で軽く重ねると、
平沢さんが何かを思い出したみたいな甲高い声を上げた。
どうしたの? と私が訊ねるより先に、
平沢さんはベンチから立ち上がって小走りにブランコの方に向かっていた。
ブランコまで残り数歩くらいの距離に辿り着いた時、
平沢さんはその場に立ち止まってから私の方向に振り返って少し大きな声で言った。


「梓ちゃん、見ててね!
これは前の『ナビゲーター』の人が、
『チャンスシステム』を信じられない私に見せてくれた事なんだけど……」


そこまで言うと、また平沢さんは私に背を向けて小走りにブランコに向かった。
平沢さんはすぐにブランコの外柵を越えて、
そのままブランコに乗るのかと思ったけど違った。
ブランコを素通りして平沢さんが足を止めたのは、
ドラムの練習をするカチューシャの人のすぐ後ろ側だった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
259Res/446.18 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice