19:猫宮[saga]
2012/07/29(日) 18:13:33.97 ID:G1XGi7PY0
何をするつもりなんだろう……?
それはそれで疑問だったけど、私はもう一つ大きな疑問を胸に抱いていた。
平沢さんは小走りにブランコに向かって行ったけど、
その間中、カチューシャの人と黒髪の人は平沢さんの方に一度も視線を向けなかった。
ドラムの練習に夢中ってだけの話じゃない。
あの二人は知り合いのはずの平沢さんに、
これまで一度たりとも視線を向けてなかった気がする。
いじめとかそんな単純な話でもない。
例えいじめにしたって、ここまで完璧に無視する事なんて出来ないはずだ。
ひょっとして、あの二人には平沢さんが見えてない……の?
私の疑問を証明するみたいに、
平沢さんは腰を屈めてカチューシャの人の耳元に自分の唇を寄せていた。
な……、何だか背徳的な雰囲気だなあ……。
って私が変な事を考えたのと同時に、
平沢さんは大きく息を吸い込んでからその唇を尖らせて……。
「あぅんっ!」
カチューシャの人から甲高い声が上がる。
ボーイッシュな外見に似合わず、その声は何だか妙に色っぽい。
……それはともかくとして。
そのカチューシャの人の反応から判断するに、
平沢さんはその人の耳に息を吹きかけたらしかった。
そういう事をする子に見えなかっただけに、私はちょっと驚いていた。
でも、それ以上に驚いたのは、その後のカチューシャの人達の行動だった。
「ど……、どうしたんだよ、律!
何があったんだ?」
カチューシャの人――律さんという名前らしい――から、
一メートルくらい離れた場所に居た黒髪の人が、驚いた表情で駆け寄ってその肩を叩く。
原因なんて分かり切っているのに、平沢さんの方に視線一つ向けないで。
黒髪の人に訊ねられた律さんも、
平沢さんなんかその場に居ないみたいに、不思議そうな表情を浮かべて呟いていた。
「急に耳に生暖かい空気が当たってさ。
いやー、何か気持ち悪かったなー……。
ひょっとして、澪、おまえの仕業か?
あの距離から私の耳を狙って息を吹き掛けられるなんてすげーな……」
「そんな事出来るか!」
「照れるな照れるな。
私がドラムの練習ばっかりやってて寂しかったんだろ?
いやーん、澪ちゃんったら寂しがり屋さんなんだからあ!」
「気持ち悪い事を言うな!」
黒髪の人――澪さんらしい――が軽く叫んで律さんの後頭部に拳を下ろす。
「いでぇっ!」という律さんの呻き声から察するに、その拳はかなり痛そうだ。
バ……、バイオレンスだなあ……。
私はまだほとんど知らない律さんの事が心配になったけど、
律さんは殴られた後頭部を擦りながらも楽しそうに笑い出していた。
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