6:バッコス ◆rEnZuhXifY
2012/07/06(金) 01:50:56.34 ID:/VCekl+io
人でごった返した改札を抜けて、ホームで電車を待つ。
手に持った携帯を無表情で眺める大人が列を成している。
俺はその最後尾に並んだが、携帯は取り出さなかった。
ネットで得たい情報もなければ、連絡を取りたい相手もいない。
少し早足で歩いたせいか、汗が額に浮いていた。
しかし、それを拭うのが酷く億劫に感じられて放っておいた。
風で汗が冷えて気持ちいい。
風邪を引くかもしれないという考えがよぎったが、別に一日ぐらい休んでも仕事に支障が無いことを思い出した。
俺はそれを可笑しく思ったが、笑みは零れなかった。
どこかから流れてくる美味しそうな香りで腹が鳴る。
だが、食欲はあまりなかった。
アナウンスが電車が近いことを告げる。
列はゆっくりと前へ向かって這う。
俺はいっそのこと飛んじゃおうか、と考えた。
前に並んだ人々を追い越して線路に躍り出たら見ている人たちは笑うだろうか?
本当に逃げたいならそうすべきなのかもしれない。
彼岸へは誰も追いかけて来れないのだから。
最近の俺は何をやっても楽しいとは思えなくなっていた。
酒を飲むのはやめたし、趣味もないから休日はいつも暇だった。
なんのために生きているのだろうと寂しさを覚える。
以前は胸を張って仕事のために生きていると言えた。
担当のアイドルをトップアイドルにするために全力を尽くしていた。
それこそ睡眠時間も削って。
ならばプロデューサーをやめた俺は何のために生きているのだろうか。
生きる意味もなく生きるなら、それは死んでるのと同じではないだろうか。
そんなことを考えているうちに電車はホームに入ってきてしまった。
安堵するとともに自分に失望する。
この優柔不断さがプロデュースを失敗させていたのだろう。
もし、俺に少しでも律子のような思い切りの良さがあったならと思う。
無いものねだりをしてもどうしようもないが。
電車は動きを止める。
一拍おいてから小気味良い音と共にドアが開いた。
27Res/13.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。