173:μ[saga]
2012/09/20(木) 18:27:22.69 ID:xX5qScGu0
「うわっ、まぶしっ!」
呻いたのは唯だった。
久し振りの直射日光は暑いというより眩しかった。
暑さだけなら私の家の中の方が上かもしれない。
でも、日の眩しさと熱に照らされ続けるのは、ずっとひきこもっていた身としてはかなり辛い。
いきなり挫けそうになる自分自身を叱咤して、私は一歩、また一歩と駅前に足を進めていく。
これが最後の試練なんだから。
この試練を乗り越えれば、何の問題も無く高校生活を過ごせるんだから……!
そう自分に言い聞かせながら、三人で人目を避けて進んでいると不意に。
「あっ……!」
見知った顔が道路の先に立っている事に気付いて、私は唯達の足を止めさせた。
危なかったわ……。
これは偶然なのか、それとも神の悪戯なのか、
道路の先、ほんの二十メートルほどの距離に私は律の姿を発見していた。
見る限り、私達も行きつけのハンバーガー屋に向かっているみたいね。
まだ律が私達の姿に気付いている様子も無い。
用心しておいてよかったという所かしら。
でも、まだよ……。
まだまだ用心して進んで、ひきこもり生活を完璧な形で完遂しないと……。
と。
嫌な予感がした私は黒髪のクラスメイトに視線を向ける。
黒髪のクラスメイト……、
澪は久し振りに見る律の姿に居ても立っても居られない様子だった。
離れていた時間が澪の中の感情を遥かに増大させてしまったのだろう。
会えない時間が想いを強くしたのね、澪……。
……そんなロマンティックな事を考えている場合では無かった。
咄嗟に私は澪の手首を掴んで、耳元で重い口調で囁いてみせる。
「駄目よ、澪。
気持ちは分かるけれど、まだ駄目。
律と会うのは私達が日焼けをしてからよ。
それからなら、いくらでも会いに行っていいから……!」
「で、でも、律がすぐ傍に……。
久し振りに見る律の顔を見てたら私……、私……!」
「後で……、後でよ、澪……!
そうね……、今度、あんたと律のデートを協力するわ。
私と澪と律で何処かに遊びに行く約束をして、
当日になって私に急用が入ったって事にすれば、あんたと律の二人きりのデートよ。
どうか、それで手を打ってくれない?
お願いよ……!」
「う……、うう……、わ、分かったよ。
我慢する……、我慢するから……、約束だぞ、和……」
「当然よ、任せて」
二人で固く手を握り頷き合う。
念の為、唯の手首も握っておいて、これで問題はクリアされたはずね。
後は律が通り過ぎるのを待てば……。
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