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2012/07/24(火) 12:43:13.58 ID:d42ujU9K0
「書庫によれば、彼女は大能力の空間移動能力者ですね」
初春は率直にそれだけを佐天に伝えた。
空間能力という学園都市内に百もいない希有な能力と、超能力者に次ぐ高強度(レベル)。
誰がどう考えても、結標が筆記による試験で名門校のドアを叩いたとは思えなかった。
「……うぐぅ」
目の前に現れた希望の灯は非情にも瞬殺された。
ドサリ、と。再び佐天の上半身がテーブルの上へと舞い戻る。
「うふ、うふふふふふふふ」
授業中に腕を組んで居眠りに興じる学生のような体制で、佐天は力ない笑い声を漏らした。
ああもう、畜生、お手上げだよと言いたげな声色と、困ったように寄せられる眉間の皺。
はっはー、現実はヘビィだぜ」
ため息交じりの佐天の独り言。
同時にぐしゃっと握ってしまった成績表の残骸が視界に入る。
第一希望の合格圏に手が届かない成績結果が記された紙。
バクバクと柄にもなく緊張の面持ちでソレを受け取った際、
中学一年生の頃からの担任教諭の大吾からは『霧が丘はまだ遠いが、佐天はがんばってるな』と褒められたことを思い返す。
事実、 受験本番の半年も前に、佐天は第二希望の学校の合格確定圏まで手が届きそうな所まで学力を上げていた。
霧ケ丘に及ばなくとも、第二希望とて名門と呼ばれるに相応しい高校だ。
学園都市は良くも悪くも完璧な実力主義が根付いている土地。
年齢も性別も人種も国籍も人格すらも、何もかもが関係ない、正常でそれでいて異常な街。
幼児から学生の全員に不公平はなく総じて平等に的確に「個人」が評価されていく。
個人の実力。
その者だからこそ持ち得た力。
それこそが、「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」に代表される学園都市における価値基準。
「嫌に、なっちゃうねぇ」
『頑張っている』からこその苦い味なのだろう。
ポテトの味でいっぱいだった口内は、いつしか鉄くさい愚痴の味が広がる。
類は友を呼ぶそうだが、はて、自分はそれに当てはなるのだろうか、と佐天はつくづく思う。
学園都市の五指に入る常盤台中学に通う空間移動能者の白井黒子。
知力体力超能力は平凡。けれども、特化した情報処理能力で風紀委員試験の壁を打ち破った初春飾利。
そして、学園都市が世界に誇る、七人の超能力者の序列第三位にして、「発電系能力者(エレクトロマスター)」の頂点にいる御坂美琴。
向かえと右隣に当たり前のように居る面子の濃さに、脳内が麻痺してしまいそうになる。
佐天は「無い、無い」とばかり言っていた。
美琴や白井のような強力な超能力も、初春のような一転突破な能力も「無い」。
可愛いねと時たま褒められる容姿も一般論での物言いで、芸能人並に飛びぬけては「無い」。
運動神経も芸術的センスも料理の腕も「人並」で括れてしまう程度でしか「ない」。
佐天涙子は何処にでもいそうな普通の女の子。
形容詞の付けがいが無い人間だと、自分自身で思ってしまうほどに「普通」。
麻薬(幻想御手)でもいいから―――、と。現実逃避をしたのはいつだったか。
少女は「無い」からこそ「有る」ものに焦がれる。焦れる。
だからこそ、満足いかない現状に打ちひしがれ、軽い気持ちで横道に逸れ、また打ちひしがれて、
「嫌になるくらい、悔しいーーーーーー!!!」
また、立ち上がる。
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