過去ログ - 禁書目録「それはきっと、幸せだった頃の夢」
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90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/16(日) 22:16:28.47 ID:9ugy5TgZo
私がようやくお目当ての本を見つけ出したのはそれから四時間後のことだった。

積み上げた本の山は山脈となって狭い通路をさらに狭めていた。
私のスマートな体でようやく通れる程度の隙間しか空いていなかった──念のために弁明しておくが当時の私はまだ二次成長期の途中で、
だから難なく紙と羊皮紙とパピルスの回廊を抜けることができたのだが──
ともかく私の努力の成果の間を縫って弟子の姿を探していると、彼は四時間前に私が自習を命じたまさにその地点にいた。

そのときの光景は異様としか言いようがなかった。

彼の座っている周囲だけが、まるでミステリーサークルのように本の山が消え失せ、代わりに元通りの場所に本が納まっていたのだ。

その中心で、座り込んで本を読んでいた彼はちょうど読み終わった本をぱたんと閉じると、そのまま本棚に納めた。

ようやく私に気付いたのか、無邪気な笑顔を浮かべて、「探してた本は見つかりましたか?」と何事もなかったかのように言ったのだ。

そう、たった四時間の間に、彼は私がおもちゃ箱を引っくり返したようにぶちまけていた本数十冊を残らず平らげてしまっていたのだ。

どころか、座っていた場所の横に一冊だけ残していた本を開いてその中の一節を私に見せると、古代語の翻訳の間違いを指摘してみせた。
私ですら一見しただけでは見逃してしまうほどの小さな、しかし決定的な間違いを、まだ魔術に浸って半年の雛が見破った。

私はまだ彼に魔術の基礎中の基礎しか教えていなかった。
確かに私の専攻はルーンを扱うものだけれど、彼には碑文の解析法も、ルーン魔術の行使も、その一切を教えてはいなかったのだ。

後に判明することだが、彼は言語学、特に古ノルド語に代表されるルーンに恐ろしいまでの適性を持っていた。
そのとき既に──恐らく生まれて初めて本格的にルーン文字に触れたであろうその時点で、彼はルーンのうちの三字について七割方会得してしまっていた。

……師匠の面目に関わるのでこれ以上を語るのはよそう。
ともかく、十二歳にして達人級の称号を獲得し、天才とまで言われた私をも遥かに上回る素質をステイル・マグヌスは有していた。


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