過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:25:47.67 ID:4DOG5YTr0
気絶した管理人を木に何重にも巻いて縛り付けると、
足に傷を負った勅使河原くんを抱えながら、駐車場に向かう。
車に収容した重症人・・・前島くんに比べれば、ずっと軽い傷だ。
二人を駐車場まで避難させると、黄色いキャミソールの少女がうずくまっていた。
この女性とは、確か有田君だったか。まだ彼女しか逃げてきていないのか?
望月君と有田君に勅使河原君を任せると、
私はまだ合宿所の中に残っているであろう、逃げ遅れた生徒達の行方を追った。
しかし、玄関に入って早々、私は目の前の惨状に愕然とする。
柱に潰されて動かない者、全身が黒焦げになって崩れ落ちた者、
その中で辛うじて生き残った三人の生徒・・・
傷を負った女子生徒を、二人の生徒が背負っていたのだが、
彼らに早く逃げるよう促すと、私は廊下へ入った。
そこでも次々に絶望的な光景が広がった。
何者かによって首を刺されて、苦しみの表情のまま死んでいる者、
少し奥には、心臓をひと突きにされて倒れている生徒の姿も見える。
これもあの管理人に殺されたのだろうか?
ふと、人影が見えた。生きている。
あの長いツインテールは、間違いなく赤沢君だ。
が、様子がおかしい。黒くて長いもの・・・鉄パイプを高らかと持ち上げて・・・
「ゆかりの所へ逝きなさい・・・」
どこまでも冷たい声が響き渡った。
その振り上げようとする右手首を、私は押さえつけた。
さっきまで赤沢君の視線にあった方を見ると、
風見君が頭から血を流しながら倒れている。
ああ・・・まさか赤沢君までこんなことになってしまうとは。
「級友同士で殺し合うなどと、馬鹿な真似をするものではない」
私も長年、3年3組を見守ってきたが、
生徒同士がこのようなことになるなど前代未聞だ。
「綺麗事ね・・・死ぬのが恐くて、傍観者に逃げ込んだあなたには、
何も言う資格はない!」
やはり赤沢君も、内心では私を恨んでいたのか。それも仕方ない。
夜見山岬君の死を認めないことに同意するどころか、
私がそれを助長したばかりに、現象が始まってしまったのだから。
いわば、赤沢君にとって私は、
お兄さんの和馬君や親友である綾野君の仇でもあるのだ。
「確かに私は逃げた・・・
だが、目の前で理不尽に死んでいく生徒を救うことくらいはできる」
償いと言ってしまえば簡単である。が、
何もしないで手をこまねいているより、少しでも悲劇を食い止めること。
それが生き残った私に課せられた使命だ。
が、赤沢君はさらに怒りで顔を歪めながら叫んだ。
「傍観者のあなたにはなにもできない!何もなせない!
状況を動かせるのは、死地に留まる当事者だけよ!」
鉄パイプを振り回そうとする赤沢君を避けつつ、私はその凶器を取り上げた。
力が余って廊下に吹き飛んでしまった赤沢君は、
猫のような身のこなしで身を伏せ、私をきっと睨みつけると、
立ち上がって、そのまま飛び出して行ってしまった。
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