過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:25:18.38 ID:4DOG5YTr0
◆Interlude III Tatsuji Chibiki
発作を起こして倒れた和久井君を病院に無事送り届け、
私は再び咲谷記念館へ向かって、愛車のボルボ240を走らせた。
対向車がギリギリすれ違う程狭く、照明灯もほとんど見当たらない暗くて危険な山道、
ましてやこの雨でスリップの危険も充分伴う悪路である。
それでも、できうる限りの早さで私は急いだ。
先ほどから胸騒ぎがしてならない。
私がいない間に、合宿所が何事も起きていなければよいのだが・・・
果たして、その期待は踏みにじられた。
咲谷記念館が近づくにつれ、赤い光がぼやけて見える。
フロントガラス越しでもはっきり見て取れる、異様なまでに鮮明な輝き。
その正体は、館全体を覆い尽くさんとばかりに燃え広がる紅蓮の炎だった。
11年前の修学旅行の悪夢が蘇る。
いや、そんな昔のことを思い出している暇などない。
一刻も早く、一人でも多く生徒たちの命を救わなければ。
駐車場にセダンを停めると、すぐ側の木陰に一人の男子が倒れていた。
背を染める紅の血。深い。が、まだ間に合う。
私はこのような時のために常備している救急具を取り出し、
彼の背を包帯できつく縛ると、後部座席に乗せてシーツを掛けた。
とりあえず、彼は大丈夫だろう。
誰かの叫び声がする。私はすぐさま、声のする方へ走り出した。
異様な光景である。
窓から飛び出そうとする男子生徒を、何者かが押さえつけている。
と、もう一人の男子生徒が、二人を引っ張り出す。
宙を舞うように、三人がもつれ合いながら中庭に落ちた。
幸いにもここは一階だ。全員無事なようだ。
が、男子生徒ではない三人目・・・血にまみれたその人物は
跳躍するや否や、うち一人の男子生徒にまたがり、手にした鈍く光るもの・・・
包丁を振りかざした。
「死にたくねぇー!!!」
その叫び声が止まぬうちに、私の躰は動いていた。
包丁を持った、その人物・・・管理人の右手首を押さえつける。
管理人は、一瞬呆気にとられたかと思うと、
熊のようなうなり声を上げて私に襲いかかってきた。
とても中年女性とは思えない俊敏な動き。
が、勢いに任せるだけでどこも隙だらけだ。
私は即座に急所を打った。
一瞬呻き声を上げたかと思うと、管理人は地面に崩れ落ちた。
管理人・・・奥さんの方である。まさか彼女が館に火を・・・
呆気にとられる二人の男子生徒・・・勅使河原君と望月君の方に目をやり、
私は呟いた。
「尋常ではないね」
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