過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:52:07.92 ID:4DOG5YTr0
しばらく話をしている内に、二人が帰る時刻となった。
「何かの暇つぶしになればいいんだけど・・・これを良かったら聞いてね」
恵ちゃんがくれたのは、吹奏楽の曲を沢山収録したCD。
「翼をください」とか「もののけ姫」とかメジャーな作品や、その他にも
私が密かに好きな加山雄三のメドレーがあったのが嬉しかった。
実は私、今時のJ−POPよりも昔の歌謡曲がお気に入りで、
ジュリーのような、昭和のアイドルの方が好みだったりする。
恵ちゃんはクラシック以外にも、ブラスバンドで色んな曲を演奏するので、
音楽の知識に関する造詣が、かなり深かった。
松子ちゃんは「パブロフ」という雑誌をプレゼントしてくれた。
中を見ると、愛くるしい子犬の写真が沢山載っている。
病院の中ではペットは当然御法度なので、
しばらくはこの写真を見て、和むことができそうだ。
改めて私は、二人の温かい気遣いに感謝した。
「あ、もうこんな時間か・・・」
「ごめんね、二人ともこんな時間まで引き留めちゃって」
「いいのよ。私たちだって久々に会って、積もる話があったんだし」
「ねー。合宿から帰ったら、また土産話持ってくるから」
恵ちゃんが少し不安そうな顔で松子ちゃんを見たけど、
私は松子ちゃんの気持ちを素直に受け取り、
「楽しみにしてるからね」
と返事した。
二人が帰り、私はまたひとりぼっちになってしまった。
でも、ここしばらく辛いことばかり起きた苦しい日々から、
ようやく明るい日差しが見えてきたような気がした。
まるで引きこもりのように、一人でくよくよ悩んでばかりいたから、
こんなに体調を悪化させたのかもしれない。
やっぱり持つべき物は、腹を割って話せる親友である。そう思った。
夜になった。病院食は薄すぎて味はほとんどなかったけど、
消化に良い食べ物を少しだけ食べた後、ふと睡魔に襲われた。
これまでは悪夢ばかり見続けたけど、
今日は半月ぶりに、心地よい眠りにつけそうだ。
夜の病院は早い。
まだ9時前だけど、寝る準備は完全に整った。
「松子ちゃんが、無事に帰ってこれますように・・・」
そう呟きながら、私はそっとまぶたを閉じた。
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