過去ログ - 春香「ねぇプロデューサーさん?」
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46:2/2[saga]
2012/08/24(金) 01:07:55.88 ID:+gymnPO2o
確かに小鳥さんの柔らかな感触は俺の背中に伝わってくるが、それを堪能する暇はない。
今の小鳥さんはただのヨッパライで、残念なことに色気が行方不明になっているのだ。

煩悩を抱く暇があるのなら、この大きな雛鳥をどうにかして巣に返さないと。

「ほら小鳥さん、巣……じゃなくて、お家どこですか?」

「帰りたくなーい」

「そういうわけにいかないでしょ?」

「かえりたくなーいー」

小鳥さんは何か悩みでもあって、酒で忘れようとしていたのだろうか?
そうじゃないと、これだけ酔っ払うというのは並大抵のことではない。

…………これはちょっと心配になってきたぞ。
何かトンデモなく大きな悩みを抱え込んでいるのかもしれない。

もしかしたら会社を辞めるつもりだと言い出すかもしれないし、
親に強引に見合いを勧められて、好きでもない人と結婚を約束する羽目になったとか……。

いやいや、こんなに酔っ払うまで飲んでしまうのだから、
そんなありふれた平々凡々な悩みではないはずだ。

もしかしたら本当は男でしたとか、社長にセクハラされてますとかいうレベルにまで……。

「だぁー俺はなんてことを考えてんだ! ………と、とにかく帰りましょ? ね?」

「帰りたく……ないよぉ」

「そ、そう言われましても」

「びぇええええええええん!!」

「えぇー」

後頭部から大音量の小鳥さんの“鳴き”声が聞こえてきた。

アルコールの力とはまったく恐ろしいもので、どうやら小鳥さんは幼児退行してしまったらしい。
小さな頃に遊園地かどこかへ連れて行ってもらった記憶が甦りでもしたのだろう。

えっぐえっぐと恥ずかしげもなく涙を流す声が、人気の無い夜道に轟く。

「帰っても誰も居ないし……誰も『おかえり』って言ってくれないし………」

「誰も居ない部屋で声が聞こえたらホラーでしょ」

「………ぐすっ」

あぁなるほど、単に小鳥さんは寂しかったのか。
俺自身もそうなのだが、確かに一人暮らしをしていると、
たまにではあるが無性に寂しく思う時がある。

バラエティ番組で笑った瞬間、それを共有する人が居ないということに気付いたり、
風邪をひいてダウンしているときに、誰も見舞ってくれなかったり………。

いつも気丈に振舞っていても、そういうちょっとしたダメージが心のダムに蓄積されていって、
今回それがアルコールの雨で決壊してしまったんだろう。

「とにかくお家の場所を教えてください」

「やー!!」

「………しょうがない、事務所に行くか」

まさか自宅に連れて行くわけにもいかないし、かといって
ミカンのダンボール箱に入れて『拾ってください』と捨てていくわけにもいかない。

「いいですか? 事務所に帰りますよ」

「はーい」

俺は一度小鳥さんを降ろして、彼女のポケットから事務所の鍵を取り出した後、
まるで等身大の人形を扱うようにして、電池が切れかけた小鳥さんを担ぎなおした。


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