576:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/11/18(日) 23:48:14.21 ID:HzzsU8/Zo
出がけに明日香の行ってらっしゃいのキスが思わず長びいたこともあって、到着してそ
れほど待つことなく、ピアノ教室の建物から生徒たちが次々と出てきた。妹を迎えに来
ているんだから恥かしがることはないと思った僕は比較的入り口に近いところで奈緒が出て
くるのを待っていた。これだけ近ければ見落とす心配はない。
このときの僕は全くの平常心というわけでもなかったけど、それほど緊張しているわけ
でもなかった。
奈緒の兄貴だということを知られてしまった今では、僕に彼女ができたということを奈
緒に話すことに対してはあまり抵抗感を感じないようになっていた。
奈緒はあのとき僕が離れ離れになっていた兄貴であることを自然に受け入れた。初めて
の彼氏を失うことよりつらい別れをした後も、一筋に兄のことを忘れなかった奈緒なのだ
からそういうこともあるだろう。
その後の奈緒は、僕と恋人同士であった頃よりも自然な態度と言葉遣いで僕を慕ってく
れた。
むしろ悩んで混乱していたのは僕の方だった。奈緒が僕のことを兄であると認めてくれ
た事実にさえ嫉妬した挙句、自分の妹に欲情する気持まで持て余して。
でもそれももう終わりだった。今の僕には明日香しか見えていない。明日香の言うとお
り僕と明日香は結ばれる運命だったのかもしれない。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、
血の繋がっていない男女としてはお互い他の誰よりも長い間身近に暮らしてきた仲なのだ。
行き違いや誤解もあったけどそれを克服して結ばれた間柄のだから、僕はもう明日香を自
分から手放す気はなかった。明日香のいうとおりこのまま付き合って将来は結婚しよう。
そして父さんと母さんがいる家で共に過ごすのだ。子どもだってできるだろうし。
そんな物思いに耽っていても目の方は奈緒が通り過ぎてしまわないか入り口の方を眺め
ていたのだけど、なかなか奈緒は出てこなかった。
いつもより遅いなと思った僕が奈緒のことを見落としたんじゃないかと思って少し慌て
だしたとき、見知った顔の少女が教室から出てきた。その子は外に出るとすぐに僕のこと
に気が付いたようだった。
それは有希だった。有希は慌てた様子もなくにっこり笑って僕の方に駆け寄ってきた。
「奈緒人さん、こんにちは」
「有希さん・・・・・・どうも」
有希は全く最後に会ったときのことを気にしていない様子だ。
「もしかして奈緒ちゃんのお迎え?」
「うん」
ここで嘘を言う理由はなかったから僕は正直にうなづいた。
「聞いてないんですか? 奈緒ちゃんは今週はずっとインフルエンザで自宅療養してます
よ。今日もピアノのレッスンは休んでるし」
それこそ初耳だった。
「知らなかった」
「電話とかメールとかしてないの?」
「したけど返事がなくて」
有希が少し真面目な顔になって僕に言った。
「奈緒人さん、これから少し時間あります?」
このとき僕の脳裏に平井さんが口にした女帝と言う言葉が浮かんだ。
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