812:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 23:47:16.66 ID:VyIo5u+Ro
最初のうちは麻季は僕の言葉に納得していた。育児もうまく行っていたし、そのことだ
けで家庭を不和にするつもりは麻季にもなかった。先輩とのメールのやり取りで僕に嘘を
ついていたことを僕に知られていたことに対して麻季が負い目を感じていたということも
あったのかもしれない。
それでもしばらくすると麻季は奈緒の名前について文句を言うようになった。確かに兄
妹に奈緒人と奈緒という名前は普通は命名しないだろう。別にはっきりとどこが変という
わけではないけど、常識的には男と女の兄妹に一時違いの名前はつけないだろう。麻季は
最初は柔らかくそういうことを寝る前に僕に話しかけてきた。この先そのことに周囲が不
審に思い出すと子どもたちがつらい思いをするかもしれないと。
それは強い口調ではなかったので子どもたちをあやすのに夢中になっていた僕はあまり
深くは考えなかった。それがいけなかったのかもしれない。玲菜に対して罪悪感を感じて
いたはずの麻季は次第に玲菜のことを悪く言うようになった。
ある夜、子どもたちを寝かしつけたあとリビングのソファに僕と麻季は並んでくつろい
でいた。翌日が休日だから僕たちは麻季が用意してくれたワインとチーズを楽しもうと思
ったのだった。結構いいワインに少し酔った僕は久し振りに麻季を誘ってみようかと考え
ていた。麻季と和解してからずいぶん経つけど、玲菜の死や奈緒を引き取るといった事態
が重なったため僕たちは相変わらずレスのままだった。
今なら麻季を抱けるかもしれない。久し振りの夫婦の時間に僕は少し期待していたのだ。
でも麻季は自分で用意したワインには一口も口をつけず青い顔でそう言った。
「玲菜を裏切ったあたしが言えることじゃないとは思うよ」
「でも、何であたしの奈緒人の名前をもじって奈緒なんて命名したんだろ。玲菜は博人君
にはあたしのことを恨んでいないと言ったらしいけど、本当はすごくあたしを恨んでたん
じゃないかな」
「いや。玲菜さんは本当に君を恨んだりはしていなかったよ」
「それなら何でわざとらしく奈緒なんて名前を付けるのよ。玲菜のあたしへの復讐かあな
たへの愛のメッセージとしか考えられないじゃない。そんな気持で命名された奈緒だって
可哀そうだよ。あの子には何の罪もないのに」
罪があるとしたら先輩とおまえだろ。僕はそう言いそうになった自分を抑えた。
「玲菜さんは冷静に自分や周囲を見ていたよ。数度しか会わなかったけどそれはよくわか
った。そして鈴木先輩以外は恨んでいなかったよ。というかもしかしたら先輩のことすら
恨んでいなかったかもしれない。そういう意味では聖女みたいな人だったな」
僕はそのとき浮気の証拠を先輩に突きつけることもなくただ先輩が自分に帰ってくるの
を耐えながら待っていた玲菜を思い出した。僕が君は強いなと言った言葉を玲菜は否定し
た。自分だって旦那に隠れて泣いているのだと。でも今思い返しても玲菜はやはり強い女
性だった。結局最後まで自分の意思を貫いて先輩と別れ一人出産したのだから。
あえてつらいことを思い出すなら、玲菜が自分の弱さを見せたのは最後に玲菜と会った
時だろう。あの時は玲菜は僕に惹かれていたとはっきり言った。そのとき僕は麻季と鈴木
先輩のような隠れてこそこそするような卑怯な関係になりたくなくて、はっきりした返事
をしなかった。でもそれが愛かどうかはともかく僕がそんな玲菜に惹かれていたこともま
ぎれもない事実だった。
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