過去ログ - ビッチ
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826:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/09(水) 23:20:39.24 ID:wSH5UfB0o

 妹の勧めで早朝に実家を立って空港に向うとき、僕はあえて子どもたちを起こさなかっ
た。あとで話を聞くと目を覚まして僕がいないことを知った奈緒人と奈緒はパニックにな
って泣きながら実家の家中を僕を求めて探し回ったそうだ。両親も妹もそれを宥めるのに
相当苦労したらしい。

 僕は実家を出て一度自宅に車を戻してから電車で空港に向かったのだけど、散乱した部
屋を眺めているとこれまで凍り付いていた感情が沸きたった。自宅を出るぎりぎりの時間
まで僕は泣きながら思い出だらけの部屋を掃除した。完全に綺麗にすることは無理だった
けど。時間切れで自宅を出て空港に向う前に、僕はふと思いついてリビングのテーブルに
麻季あてのメモを残した。



『おまえのことは絶対に許さない。奈緒人も奈緒もおまえには渡さない』



 残りの一月、バイエルンでの取材は集中するのに大変だった。ふと気を許すと幸せだっ
たころの麻季の笑顔や子どもたちの姿が目に浮かび、集中して聞くべき演奏がいつのまに
か終っていたりすることもあった。それでも麻季の行動の理由をあれこれ考えているより
は仕事に集中した方がましだと気がついてからは、今まで以上に仕事にのめり込んだ。そ
のせいか編集部に送信した記事や写真は好評だったし、雑誌自体の売り上げも二割増とい
う期待以上の成果をあげたそうだ。

 仕事が終ると僕は実家に電話して奈緒人と奈緒と話をした。僕が消えてショックを受け
ていた二人も次第にもう落ち着いていたようで、僕と話すことを泣くというよりは喜んで
いる感じだった。



『二人とも思ったより元気にしているよ』

 電話の向こうで唯が言った。

「唯が子どもたちの面倒を見てくれるおかげだな」

『うーん。あたしもなるべく一緒に過ごすようにはしているんだけどさ。何というか二人
ともお互いがいれば安心みたいな境地になっちゃってるみたい』

「奈緒人と奈緒は前からいつもべったり一緒だったからな」

『まあそうなんでしょうけど。ちょっとでも奈緒人から話すと普段は落ち着いている奈緒
騒ぎ出すのよね。まあ兄妹が仲がいいのはいいことだけどね』

「そのせいで麻季や僕がいなくても我慢できるなら助かるけど」

 唯は少し笑った。

『いいお兄ちゃんだよ、奈緒人は。あたしもあんな兄貴が欲しかったなあ』

「・・・・・・悪かったな。それで麻季を恋しがったりはしていないのか」

『全然。お兄ちゃんのことはいつ帰るのって二人ともよく聞くけど、お姉さんのことはこ
こに来てから一度も口にしないよ』

「そうか」

 僕は子どもたちが落ち着いていることに少し安心することができた。やがて一月が過ぎ
て僕は帰国した。


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