879:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/25(金) 23:25:01.05 ID:7rNmoFO0o
店内には簡単な昼食をとる客に混じって、打ち合わせをしている顔見知りも結構いるよ
うだ。こんな環境で僕はサンドウィッチを放置して理恵にプロポーズした。
理恵はと言えば口に中からハムとマヨネーズが溢れ出して、すぐには返事どころではな
かったらしい。目を白黒させながら彼女は慌ててアイスコーヒーで口の中を洗い流した。
「うん、いいよ。バツイチ同士だけど結婚しようか」
さっきまで大学生同士のように何気ない会話でお互いの気持を確かめ合っていたはずな
のに、やはりこの年になるとロマンスには無縁になるのだろうか。僕と理恵の再婚は混み
合った喫茶店であっさりと決まったのだった。
それから少しして僕と理恵は別れた。お互いにまだ仕事中だったのだ。麻季にプロポー
ズした時のような大袈裟なやりとりは何もなかった。考えてみれば愛しているとか好きだ
よとかの会話も、少なくともこのときにはお互いに口にしていなかった。
「とりあえず、麻季ちゃんと博人君が離婚するまでは婚約もできないね」
「ああ、悪い」
「いいよ。それで奈緒人君と奈緒ちゃんは当然引き取りたいんでしょ?」
「うん・・・・・・いい?」
「もちろんだよ。でも有希も一緒に育てるからね」
「当然そうなるよね。奈緒と有希ちゃんは同い年だしきっとうまくいくよ」
「うん。たださ。プロポーズしてくれた後にこんなこと言うのは後出しっぽくて申し訳な
いんだけど」
「何?」
僕は少し嫌な予感がした。ここまでうまく行き過ぎいているような気がしていたのだ。
「あたし、仕事は止めたくないんだ」
「そんなことか。もちろんいいよ」
麻季は奈緒人を出産したとき、自ら望んで専業主婦になったのだ。僕はそのことに関し
て反対をしたことはない。そして理恵が共働きを望んでいる以上、無理に専業主婦にする
つもりもない。
「そうじゃなくてさ。結婚しようって言ってくれたのは嬉しいけど、あたしと一緒になっ
ても君と麻季ちゃんの親権の争いには有利にはならないよ?」
僕はそのことをすっかりは忘れていた。もちろん親権に有利になる方が望ましいことは
確かだった。それは唯が僕に理恵と付き合うように勧めた理由の一つでもあったのだ。で
もこのときの僕は子どもたちの親権を考慮して理恵にプロポーズしたわけではなかった。
親権の争いのことなど今まで忘れていた。ただ、理恵と一緒になりたいと思っただけで。
僕はそのことを正直に理恵に話した。
「・・・・・・嬉しい。そう言ってくれると、さっき結婚しようって言われたときより嬉しいか
も」
理恵が今日始めて顔を伏せて涙を浮べてそう言った。
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