899:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/29(火) 23:23:38.87 ID:HhhlN1+2o
いろいろ考えた末、理恵の好意に甘えることにした僕は代理人の弁護士に養育環境が麻
季に対して有利な方向で整ったことを報告した。麻季の代理人と親権について渡り合って
くれている彼にはいい交渉材料のはずだった。でも彼は浮かない顔で答えた。
「まあ、昨日までならいい材料だったかも知れないですけどね」
「どういう意味です?」
「今日、太田先生から連絡があったんですよ。先方の状況がいい方に変化したんでお知ら
せしときますってね」
「・・・・・・変化って。いったい先方に何が起きたんですか」
「こっちと同じですよ。先方の養育環境もずいぶん有利になってしまいました」
「というと?」
「奥さんの方も離婚が成立したら再婚するらしいですよ。まあ、奥さんの方は半年は結婚
できませんけど、実質的には同棲するみたいですから、養育条件の面ではこちらに不利に
なるところでした」
弁護士がそう言った。「まあ、幸いにも結城さんにもお相手ができたみたいですから、
そういう意味では五分五分というか一進一退というところですかね」
では麻季にはやはり好きな相手がいたのだ。奈緒人と奈緒の親権の争いがかかっていた
大事な場面だったのだけど、このとき僕は麻季の相手が誰なのかが一番気になった。そし
てすぐにそういう自分の心の動きに幻滅した。僕にとって一番大切なのは子どもたちだっ
たはずなのに、そして今では一番大切な女性は理恵なのだ。それなのに麻季の再婚相手の
ことに心を奪われている自分が心底情けなかった。
「相手の名前は?」
「鈴木雄二さんです。あなたの奥さんのかつての不倫相手ですね」
やはりそうか。奈緒人と奈緒のこととか僕と玲菜のこととか、いろいろごちゃごちゃと
考えたことなんか実際にはまるで関係なかったのだ。やはり麻季は鈴木先輩のことが好き
だったのだ。それも理恵の言うことを信じるとしたら大学の頃から。
「まあ奥さんの再婚はどうでもいいんですけどね。偶然にも先方と同じで結城さんにも一
緒に育児できるお相手ができたわけだし、養育環境の面だけではこちらも有利にはなれな
かったけど不利にもなっていません」
「はあ」
「それよりも問題なのは奥さんの相手が鈴木雄二ということですよ」
「どういうことですか」
「ご存知なんでしょ? 鈴木雄二氏は奈緒さんの実の父親ですからね。奈緒さんが戸籍上
はあなたと麻季さんの娘だとしても血は繋がっていない。実の父親が奈緒ちゃんを引き取
りたいと言い出しているわけで、ちょっとまずいことになりそうですね」
どうしてこんな簡単なことを今まで僕は忘れていたのだろう。鈴木先輩は玲菜の夫だっ
た。玲菜の遺児である奈緒の実の父親は鈴木先輩なのだった。玲菜は先輩に自分の妊娠を
告げることなく先輩と離婚して奈緒を出産した。そして玲菜の死後、先輩は奈緒を引き取
りはしなかったけど認知だけはしたのだった。
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