901:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/29(火) 23:25:09.58 ID:HhhlN1+2o
翌日はすごく暑い日だったけど、家庭裁判所の隣にある公園は樹木が高く枝を張り、繁
茂している緑に日差しが和らげられていて、申し訳程度にエアコンが働いている家裁の古
びた建物の中よりよっぽど快適だったかもしれない。
この日僕は会社の上司に麻季との離婚調停があることを正直伝えて休みを取っていた。
それはいいのだけど、問題は奈緒人と奈緒だった。僕の両親は前日から体調を崩してこの
日は病院に行くことになっていた。そのせいで僕は弁護士から言い渡された辛い事実を相
談することすらできなかった。
僕は唯には弁護士から聞かされたことを相談した。案の定唯はひどく好戦的だった。
「麻季さんってどこまで自分勝手で卑劣なんだろう。お兄ちゃんに嫌がらせをするためな
ら奈緒人と奈緒を不幸にすることも辞さないのね」
吐き捨てるように唯はそう言った。
「明日の調停で何と主張するのか決めなきゃいけないんだ」
僕はもう何かを考える当事者能力を失っていたのかもしれない。これまでの僕は奈緒人
と奈緒を失うか、これまでどおり一緒に過ごせるのかの二択以外のことは考えもしなかっ
たのだ。突然に告げられた奈緒だけを引き取りたいという麻季の主張は僕を混乱させた。
これまで麻季には少なくとも奈緒人と奈緒にだけは愛情があるということを、僕は疑っ
ていなかったし、そのことを前提に麻季と親権を争っていたつもりだった。たとえ奈緒人
と奈緒の親密な様子に僕と玲菜を重ねてしまっていたとしても、まさか麻季が奈緒人と奈
緒を引き剥がすような、子どもたちにとって残酷な主張をするとは夢にも思っていなかっ
たのだ。
「明日、どうすればいいのかな」
僕は思考を停止して唯に弱音を吐いた。そんな僕の様子に唯は憤った様子だった。
「どうもこうもないでしょ。断固拒否するのよ。奈緒人と奈緒を別々に育てるなんて可哀
そうなことは認められないでしょうが。あの子たちが麻季さんの虐待に耐えられたのはお
互いを慰めあってきたからじゃない。奈緒人と奈緒を散々傷付けたくせに、反省するどこ
ろかさらに傷つけようとする麻季さんなんかに負けちゃだめよ」
「でも弁護士は訴訟に移行しても負けそうだって言ってるし」
「だから何? やってみなければわからないでしょ。調停ごときで諦めるなんて、お兄ち
ゃんは奈緒人と奈緒を愛していないの?」
理恵はといえば基本的には唯と同じ意見だった。でも唯と異なるのは、僕がどう判断し
ようとも最終的には僕の判断を受け入れると言ったことだった。
『後で後悔するくらいなら結果はともかく唯ちゃんの言うようにとことん足掻いた方がい
いかもしれないね』
そう電話口で理恵は話した。『でも最終的には決めるのは博人君だし、それがどういう
決断になるとしてもあたしは最後まで博人君の味方をするよ』
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