930:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/06(水) 00:00:46.30 ID:f2bpB/Vto
奈緒は玲菜にそっくりだ。友人のいない学生時代を唯一といっていい親友の玲菜と過ご
していた麻季にはそう思えた。別に外見だけじゃない。まだ幼いのに他人に対する態度が
すごくソフトなところや、人の気持を優先して自分を抑えるところは、まるで人のいい玲
菜そのものだった。
そして一見遠慮がちで儚げな様子に隠れてはいるけど、実は奈緒の芯は非常に強く、自
分の考えを曲げない強い意志の力を持っている。幼稚園の先生からの連絡ノートを読んで
麻季は自分の考えを確信するようになった。鈴木先輩の実子ではあるけれど、彼の調子の
いい優しさやその場限りの人当たりの良さなんて奈緒には全く感じられない。奈緒は完全
に玲菜似だったのだ。
最初の頃は麻季にとってそのことが嬉しかった。自分に裏切られてもなお黙って身を引
く道を選び、そして突然の死を遂げた親友の玲菜が再び自分の前に姿を現してくれたよう
に感じたのだ。心配する博人を説き伏せて奈緒を引き取った決心は正しかった。そう思う
と麻季の生活には自然とやりがいと張りが戻ってきた。博人も多忙な仕事を無理にやりく
りして週末はなるべく家で過ごすように心がけていたようで、自然に夫婦の仲も改善され
だした。
自分の浮気から始まった家庭の危機がようやく収束しようとしていた。これも玲菜のお
かげかもしれない。結果的に玲菜の遺児を引き取ることによって、麻季と博人は失ってい
た共通の目標を再び共有することができたのだ。
奈緒の遠慮がちな様子は父親の博人や麻季自身に対してさえ向けられていた。奈緒は物
心がつく前から結城家に養子に入っていたし、奈緒が実子でないことはまだ幼い本人には
伝えていなかったので、両親にくらいは無邪気に自己主張してもいいはずだった。でも奈
緒はそうしなかった。養子であることへの遠慮であるはずがないことを考慮すると、きっ
と奈緒は家族も含めて誰に対しても一歩引いて、相手の意向に従う態度を示すような性質
を持っていたのだろう。
その頃から奈緒は奈緒人によく懐いていたし奈緒人も奈緒の面倒をよく見ていた。その
こと自体には不満がないどころか麻季にとっても喜ばしいことですらあった。二人はいつ
も一緒に過ごしていた。その様子は微笑ましかったし、仕事から帰った博人もそんな様子
を暖かく満足して見守っているようだった。
それでも少しだけ困るようなこともあった。たとえば休日に家族で外出するとき、家族
四人で一緒に遊んだり食事をしたりする場合は別に問題はないのだけど、博人と麻季が手
分けして生活に必要なものを購入しようと二手に分かれたりすると問題が発生した。
博人に手を引かれた奈緒人と麻季と手を繋いだ奈緒。奈緒は奈緒人の姿が視界にないこ
と気がつくと火のついたように泣き出してしまう。奈緒人も泣きはしないまでも博人の手
を振り払い奈緒の姿を求めて駆け出して行こうとした。
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