960:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/11(月) 23:18:46.51 ID:ER1rVJ59o
博人と結婚して奈緒人が生まれ、麻季は幸せだった。もうあまり心の中の声が勝手に彼
女に指示することもなくなっていて、生まれてはじめて彼女は平凡だけど安定した生活を
送るようになった。もう二度とあの声が聞こえることはないだろうと彼女は思った。それ
くらい育児というのは彼女にとって大変で、しかし幸せな体験だった。妊娠をきっかけに
麻季は佐々木先生の教室をやめた。先生は育児が一段落したらいつでも戻っておいでと残
念そうに彼女に声をかけてくれた。
育児で多忙な麻季だったけど、奈緒人がお昼寝をしたりしている時間は彼女の自由にな
る時間でもある。そんな時間すら麻季はベビーベッドに寝ている奈緒人をぼんやりと見つ
めていることが多かった。この子は博人君に似ている。そんな奈緒人を見つめているだけ
で自然に育児の苦労も忘れ彼女の顔には自然に笑みが浮かんだ。彼女にとって出産は自分
の愛する人が無条件で増えたということだった。
怜菜と鈴木先輩の結婚、それにその披露宴に自分が招待されなかったことについて、彼
女はだいぶ冷静に考えられるようになった。
怜菜が何で鈴木先輩とって悩んだこともあったけど、あの心の中の言葉のとおりだとは
やっぱり思えない。例えばお互いに好きな相手と添い遂げられなかった同士である怜菜と
鈴木先輩が何かの拍子に相談しあい慰めあっているうちに、恋に落ちたということだって
考えられるのではないか。そういうことだって世の中には決してないことではない。
そしてそういうことだとしたら二人が麻季を披露宴に招待しなかったことも納得できる。
先輩だっていくら怜菜の親友だといっても自分が振られた相手を招待するなんてことはし
たくないだろう。
ひょっとしたら怜菜は麻季のことを招待したかったのかもしれない。もう自分は博人へ
の想いを断ち切って鈴木先輩と幸せになるよって、言葉にする代わりに幸せな披露宴の様
子を見せたかったのかもしれない。でも、常識的に考えれば鈴木先輩が麻季のことを元カ
ノだと信じ込んでいた以上、怜菜も麻季を招待するとは言い張れなかったのも無理はない。
心の声は以前に言った。玲菜は敵だと。そして、彼女は麻季と博人との付き合いを邪魔
しようと企んでいるんだよと。
今にして思えば邪推もいいところで、せいぜいよく言っても考えすぎだ。怜菜と鈴木先
輩が結婚したことによって麻季と博人の仲が邪魔される要素なんかない。むしろその逆だ
ろう。今度はその声も麻季の考えたことに反論しようとしなかった。
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