過去ログ - 奉太郎「守りたいもの」
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61: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:47:30.37 ID:ojYOkXiS0
 守りたいもの。それは俺にとっては省エネという信条である。矜持というほど立派ではないそれだが、しかし確かに俺は大事にしている。

 彼は、A君は、何が守りたいのだろうか。成績か。日常か。己の未来か。
 取るに足らないちっぽけな出来事なのか、それとも刑事事件にすら問われる大事なのか。

以下略



62: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:48:29.03 ID:ojYOkXiS0
 何も刑法に指摘される犯罪でなくてもいいのだ。彼が気にしているのは自らの身柄が拘束されることではない。
 内申点、周囲の評価、処罰、そういったものでも十分怯える根拠にはなりうる。

 はっとした。ようやく一つの解を得たような気がした。

以下略



63: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:49:45.13 ID:ojYOkXiS0



「こいつがしたのは、電子万引きだ」

以下略



64: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:50:44.69 ID:ojYOkXiS0
 里志は一瞬顔を顰めた。そしてそのまま空の紙コップに視線を移し、数秒思考を巡らせていたようであったが、やがて清々しそうに顔をあげた。
 その様子を見て俺は少なくとも推論が里志の眼鏡には叶ったのだと理解する。

 ふぅ、と里志が深呼吸をする。そうしたいのは俺も同様だった。

以下略



65: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:51:40.91 ID:ojYOkXiS0
 かくいう俺は推して知るべし。一面を見て、二面を途中で空き、テレビ欄にスキップする程度の読破量である。

「一応確認だけど、電子万引きは捕まるのか?」

「現行法じゃ捕まらないよ。ただ、ばれたら注意はされる。学校に見つかったら……どうだろう。生活指導の先生に呼び出されるくらいは、あるかもしれない」
以下略



66: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:52:27.56 ID:ojYOkXiS0
「A君は自らの行為が非難される行為だと知っていた。だから慎重にならざるを得なかったし、必死にならざるを得なかった」

「そして、どうする気だい?」

 真剣みを帯びた表情で里志が言う。その意味は、つまり裏を返せばこういうことだ。携帯電話を返さなければ事件は終わらない。少なくとも不安要素は残る。
以下略



67: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:54:49.70 ID:ojYOkXiS0
 俺は今一度里志の尋ねに対して思考する。俺はどうすればいいのか。どうすれば丸く収めることができるのか。

 そこまで考えて、思考を妨げる壁がせりあがってくるのを感じた。どうすればいいのかという問いを立てたのはいいが、俺がどうしたいのか、
俺自身理解していないことに気が付いたからだ。

以下略



68: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:55:25.34 ID:ojYOkXiS0
 里志に向けての問いではなかった。が、里志はそれを受けて困ったように笑い、

「僕に聞かれても困るなぁ。でも……意外だとは思っていたけど、ホータロー自身がわかっていなかったなんてね」

「あぁ、なんとなくでここまで進めていたけど」
以下略



69: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:56:12.49 ID:ojYOkXiS0
 唐突に話がS字カーブを描いたので、俺は思わず話のレールから脱線しかける。いや、脱線しかけたのは話の軌道の問題だけではあるまい。

 なんだって、伊原と……付き合う?

 先日のバレンタインデイの件を思い出す。里志は結局、結論を出せなかった。チョコレートを砕くことで体現したそれは、思考の停止ではなく懊悩だ。
以下略



70: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:56:46.58 ID:ojYOkXiS0
「随分大変だったろう」

「大変だった、なんてもんじゃない。大変なのさ」

「だから伊原を送ったのか」
以下略



71: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2012/09/14(金) 11:57:40.40 ID:ojYOkXiS0
「……」
「ホータローがどうしてこんなことをしたのか。折角だから考えてみればいいんじゃないかな?」
 里志はトレイを持って立ち上がる。帰るのに否やはなかった。ただ、それでも聞いておかなければいけなかった。
「お前は、わかってるのか? どうして?」
「まったく……」
以下略



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