過去ログ - える「折木さんも…ご経験がおありなんですか?」奉太郎「」
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2012/09/16(日) 18:23:12.55 ID:2r6A/1tO0
(遠垣内君、明日お昼に食堂に集合ね。逃げたら間接極めちゃうぞ)
彼女につられて、自然と笑えている自分がおかしかった。
(とくと見なさい、和風弁当! 弁当っていうか、ほとんどおせちになっちゃったけど。日本にいるうちに作っとかなきゃなーと思うとつい)
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2012/09/16(日) 18:24:23.69 ID:2r6A/1tO0
(この前、変な事件があったでしょ? ほら、二年生の財布が盗まれたやつ。しょうもない話だったよね、え? 未解決ってことになってるんだ。真相、聞きたいの? うーん、遠垣内君ならいいか。でも記事にしちゃ駄目だからね)
人一倍勘が鋭く、いつも彼女は真実を見抜いていた。物事の事実を暴くのではなく、包み込むように、見守っていた。
(あれ、煙草なんて吸ってるの? まあ知ってたけどね。そんなに焦らなくたって、君はもう十分大人だよ)
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2012/09/16(日) 18:25:58.90 ID:2r6A/1tO0
(家ねぇ、私は普通の家庭に育ったから、その辺は相談に乗ってあげられないな。家族っていえばさ、私弟がいるんだけど、それはもう可愛くないヤツで、奉太郎、っていうんだけどね)
弟の話をするとき、彼女は可愛らしく温かい表情をした。
(好きな人? あっははっ、色気づいちゃって、部長に変なことでも吹き込まれたの?)
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2012/09/16(日) 18:27:44.15 ID:2r6A/1tO0
(どうだった、特集? 良い出来だったでしょう。感動しましたと言いなさい! 遠垣内君の協力があったんだから、当然でしょう?)
彼女と一緒にいられて、ただ嬉しかった。
(でも残念だなー、今年も新入部員入ってないから、私が卒業したら部員ゼロになっちゃうんだもんね。ね、いっそ金庫に鍵かけて封印しちゃおうか? 古典部、文集の行方はいかに? って感じの伝説が残るかも……なーんてね)
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2012/09/16(日) 18:29:24.59 ID:2r6A/1tO0
(へぇ、卒業したあとのこともう考えてるんだ。悩んでるだけ? それだけでも凄いことだと私は思うな。私は一年生のときは、十年先のことは考えてなかったな。飛躍しすぎ? でも、遠垣内君が思い描いている先は、十年後のことなんでしょう?)
自分のちっぽけな覚悟なんてとっくに見透かされていて、恥ずかしくなった。
(私はね、いろんな世界を見て回るの。見たことない景色を、行ったことのない街を、海を越えて、山を越えて、空も越えてさ。え? 遠くになんて行かないよ。だって、私たちは同じ星に住んでいるんだから、あ、こりゃクサイな)
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2012/09/16(日) 18:34:08.72 ID:2r6A/1tO0
(どうしたの? また相談かな? でも、君はもう答えを見つけているでしょう? いつまでも供恵先輩に頼ってちゃ、駄目だぞ)
彼女と一緒なら、新しい答えを見つけられると思った。
(じゃあね、また、もしも会う機会があれば、先輩面するから――)
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2012/09/16(日) 18:35:31.62 ID:2r6A/1tO0
先輩、俺は、先輩のことが……
(弟がもし神高に入ってきたら、よろしくね、遠垣内君――)
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2012/09/16(日) 18:39:23.99 ID:2r6A/1tO0
◇ ◇ ◇
「失礼します」
俺が生物準備室のドアを開くと、壁新聞部の部員たちが談笑しているところだった。段ボールを積んだだけの、簡易テーブルも去年のままだった。ホワイトボードには、『祝、卒業! 遠垣内先輩』と赤ペンで大きく書かれていた。
簡易テーブルの上座に座っていた遠垣内は、俺の姿を認めると、一瞬だけ目を見張った。彼は他の部員に断りを入れ、入り口までやってきた。
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2012/09/16(日) 18:40:59.56 ID:2r6A/1tO0
「俺に?」
遠垣内はさぞ不思議そうに首を傾げた。
「これ、俺の姉が、先輩にだそうです」
俺はポケットから小包を取り出して、遠垣内に差し出した。
遠垣内は息を呑み、大きく目を見開いてから、視線を小包と俺の顔の間を何度も往復させた。やがて、困ったように、観念したように笑った。
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2012/09/16(日) 18:43:08.71 ID:2r6A/1tO0
渡り廊下に出ると、遠垣内は柵にもたれて一度大きく空気を吸い込んで吐き出した。
空を仰ぎ見る彼の目は、遠い場所を羨望するような眼差しだった。
「先輩は、姉……供恵とお知り合いだったんですね」
「……まるで、今日知ったかのような口ぶりだな」
遠垣内は怪訝そうに呟いた。
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