過去ログ - える「折木さんも…ご経験がおありなんですか?」奉太郎「」
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2012/09/16(日) 18:47:11.60 ID:2r6A/1tO0
「はい、今日知りました。姉に教えてもらったんじゃありません。この小包も、先輩宛だとはさっきまで分かりませんでした。千反田が、先輩が俺によろしくと言うのは変だと、勘繰ったものですから」
「なるほど。それだけで、お前は全部悟ったわけか」
流石だな、と遠垣内は呆れたような声で付け加えた。
「……おおよそは。本来なら、俺は先輩に会うことも、この小包を先輩に渡すこともなかった。ですが、俺は気付いてしまった。だから俺は先輩にこれを手渡す義務がある」
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2012/09/16(日) 18:48:45.03 ID:2r6A/1tO0
俺は、一つだけ千反田に言っていないことがある。
今俺が手に持っている、姉貴から預かった小包のことではない。俺は三番目の説――『俺がこれからも遠垣内とよろしくする関係にある』――に対して説明をしていない。
「去年の文化祭で、姉に会いましたか?」
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2012/09/16(日) 18:50:29.16 ID:2r6A/1tO0
「……それを聞くってことは、わかってるんだろう?」
俺は後ろ暗い気持ちになった。俺を通して「さよなら」を遠垣内に伝えようとした姉貴を、ぶん殴ってやりたい。それは本来、姉貴が直接会ってやらければならないことだろう……!
「おいおい、怖い顔するなよ。お前が怒ることじゃない」
「……怒ってるわけじゃありません。ただ、気に入らないだけです」
遠垣内は苦笑して、俺に歩み寄った。そして、手招きするように、右手を差し出した。俺はぐっと口を引き結び、小包を遠垣内に手渡した。
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2012/09/16(日) 18:52:48.04 ID:2r6A/1tO0
「嫌味のつもりだったのが、倍になって返ってきたわけだ」
「俺は先輩と姉のことを詳しく知りませんし、聞くつもりもありません。ただ、借りを返したいだけです」
「借り? 煙草のことか?」
「いいえ、『文集』のことです。……すいませんでした」
俺は改まって低頭する。これはやらなければならないことだ。人の気も知らないで、俺が他人の思い出に土足で踏み込んだツケだ。
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2012/09/16(日) 18:54:47.07 ID:2r6A/1tO0
「はは、確かに、供恵先輩の弟なら、こうするんだろうな」
遠垣内は怒るでもなく、穏やかに笑ってみせる。姉貴の弟なら、というのがどういう意味か分からないが、きっと悪い意味に決まっている。
「お前が謝るようなことじゃないさ。ただ俺が賭けに負けただけだ」
最初から分かっていた。遠垣内の言葉は、俺にはそんな風に聞こえた。俺は応えず、黙ったまま足元に目を落とした。今日俺が遠垣内を訪ねなければ、メッセージは違っていたのだ。「よろしく」は、過去ではなく、未来に向かう言葉だから。
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2012/09/16(日) 18:57:50.51 ID:2r6A/1tO0
「――ああ、知っていた。先輩は、自由で、気ままで、それでいて揺ぎ無い人だった」
全く同意できない、というか、頷いてしまうと癪に障る。
「先輩、間接極められた仲間のよしみで言いますが、姉貴を過大評価しすぎですよ」
俺が言うと、遠垣内はきょとんとした顔をしたかと思うと、声をあげて笑い出した。
「あれは痛かった、すごく痛かったな」
以下略
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2012/09/16(日) 19:01:05.23 ID:2r6A/1tO0
「大学生です。今この瞬間なら、多分、今頃空の上かと」
「そうか、安心した」
そう言って、遠垣内はすっきりとした顔をして、満足げに微笑んだ。
俺は、遠垣内と姉貴との間にどんな会話が交わされ、どんな感情が行き交ったのかを知らない。俺が残酷だと思える姉貴の仕打ちを、遠垣内が笑って済ませてしまう理由は分からない。加えて俺は、誰かを好きになり、その誰かと別れ見送った経験などないのだ。
それでも俺は、遠垣内が姉貴と過ごした一年間は、遠垣内にとって確かにこの瞬間、惜しまない日々になったのだと、そう思った。
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2012/09/16(日) 19:02:36.76 ID:2r6A/1tO0
>>75
誤爆したorz
「確かに受け取ったよ。……供恵先輩は、今は?」
「大学生です。今この瞬間なら、多分、今頃空の上かと」
「そうか、安心した」
以下略
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2012/09/16(日) 19:03:43.38 ID:2r6A/1tO0
「先輩、卒業後はどうされるんですか?」
「県立大の教育学部さ。俺も、自由気ままにやろうと思ってね」
これから散歩でも行くように軽く言ってのけた遠垣内の進路先に、俺は驚きを禁じえなかった。中等教育に影響のある家柄だ、という千反田の言を思い起こす。遠垣内はさぞ家柄というものに辟易していると思っていた。失礼な話だが、俺は煙草を吸っていた遠垣内を、子供じみた反抗を続けるお坊ちゃまだと思っていたのだ。
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2012/09/16(日) 19:04:34.00 ID:2r6A/1tO0
けれど、思い違いだったようだ。遠垣内は、とっくに教育の道に進む覚悟があったのだ。あったのは、それに不満がない、という不満。
だから、遠垣内は、自由奔放でいて、自分をしっかり持っている――あくまで遠垣内の弁ではだが――姉貴に憧れたのではないだろうか。
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2012/09/16(日) 19:05:58.79 ID:2r6A/1tO0
「姉に、いずれ伝えます。遠垣内将司は、しっかりと自分の道を歩いている、と」
俺は真っ直ぐ遠垣内に向き直って言った。
「――ああ、よろしく言っておいてくれ」
俺が今見ている彼の表情は、きっと千反田が見たそれと同じなのだろう。
以下略
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