57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2012/11/25(日) 02:31:41.08 ID:TR/d6o+DO
女性「では、行きましょう。先導するわね」
少女「あ、わたしが車椅子を押していいですか?」
女性「あら? いいのかしら?
それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
少女「はい、任せてください」
女性を乗せた車椅子の後ろに少女が移動し、そのまま車椅子を押して進み始める。
男「やれやれ……」
それを一歩離れて見ながら、男が軽く苦笑いを浮かべた時だった。
女「……」
ずいっ、と唐突に、女の顔が男の眼前へと現れた。 男は驚き、後ろに仰け反って数歩下がる。
男「うおっと、と……
急にどうしたの女さん?」
女「……」
速まった鼓動を落ち着けるように息を整えながら、男が女へと聞き訊ねる。
すると、女は両の瞳でじっと男を見据えながら、両手をゆっくりと水平に上げ始める。
そして大の字となって男の行く手を遮るように両手を広げ終わると、女は静かに、男に向けて首を横に振って見せた。
男「……この先へ、行くなってこと?」
女「……」
こくりと、女が首を縦に動かす。
男「……」
女が反応してくれた。
それについての驚きもさることながら同時に、男は背筋に冷たいものを感じていた。
幽霊は無意味な行動はしない。
つまり、(おそらくは)友好的な幽霊である女が「行くな」と示すならば、それに足るだけの「行ってはいけない危険な何か」があるという事に他ならない。
そして、現状で思いつく危険なものと言えば、やはり悪魔に関する事以外に男は思いつかなかった。
男「……」
時間が凍り付いたように、男と女の二人は廊下で向かい合ったまま視線を交差させる。
感情を映さぬ冷淡な女の瞳に晒されるうちに、冬口の廊下だというのに男の額に冷や汗が滲み始めた。
──この先に、悪魔がいるかもしれない。
男は覚悟していたが、いざ目の前に女が立ちはだかり命の危機を示唆されると、さすがに決意と足が鈍くなる。
人間を容易く殺せるだけの力を持った悪魔がこの先に待ち構えているかもしれないのだ。
果たして、女の手を振り払って進み、みずからの命を危険に晒すだけの意味があるのだろうか?
男の胸中にて様々な思考が葛藤を始める。
少女「男さーん! 置いて行きますよー!」
男「待って、今すぐ行くから。
……女さん」
女「……」
男は廊下の先を行く少女に答え、目の前に立ちはだかる女に声を掛ける。
だが、男の内心での葛藤は決着していない。
ただなにか言わなければという一心から口をついて言葉が出ただけである。
しかし、それが正解であった。
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