過去ログ - エルフ「……そ〜っ」 男「こらっ!」
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]
2012/12/31(月) 21:09:35.40 ID:EQvKQYAS0
……
…
もはや、何をせずとも人間側の勝利は確定していた。北方での最後の戦い、すべての戦力を集めたエルフとの戦いはあっけなく幕を閉じた。
特攻覚悟で突っ込んできたエルフの部隊を勝利の勢いそのままに次々と打ち倒し、殺害する人間側。敗戦色濃く、もはやこれ以上戦うことに意義を見出すことができなかったのかエルフのほとんどは戦場から逃げ出し散り散りになっていた。
今人間側の兵が行っているのは戦闘ではない。逃げ惑う獲物を一方的に殺す狩りだ。そして、男もまた仲間たちと離れ一人逃げたエルフたちを殺して回っていた。
抵抗するもの、命乞いをするもの、泣き叫ぶものなど多くいた。だが、彼はその全てを殺した。憎かったからではない。殺られそうになったからでもない。ただただ、早く戦争を終わらせたかったから。悪夢に終止符を打ちたかったから。
そうしてついに男が追うエルフはひと組になった。
兄妹と思えるまだ幼いエルフ。非戦闘員と思える彼ら。だが、幼いからといって見逃せば後の禍根に繋がる。
容赦はしない。そう思い、短剣を持つ手に力を込める。思考を占めるのはどのようにしてこの兄妹を殺すかということのみ。他は何も考えたくなかった。
そうして、一歩、また一歩と幼いエルフの兄妹に死を告げるため近づいていく。そんな彼から妹を守ろうと兄エルフが両手を大きく広げ男の前に立ちふさがる。
邪魔だ。そう思い兄エルフを殴り飛ばそうとした瞬間、彼の瞳に映る己の姿を見て男は驚愕する。
そこにいたのは、かつて自分の大切な存在を奪っていった傷エルフの姿と全く同じ表情を浮かべていた己の姿だった。
それを理解し、愕然すると共に男は悟る。このまま行けば自分は奴と同じところまで行き着くことになると。
そう思ったとたん、それまで何度も敵であるエルフを殺してきたはずの腕はピクリとも動かなくなった。この二人を見逃したところで自分がたくさんのエルフを殺してきたことには変わりはないのに、それでも……。
男「……行け」
兄エルフ「……えっ?」
男「さっさと行けと言っている! 僕の気が変わらないうちに、どこへでも消えろ!」
声を荒げ、戸惑いその場から動こうとしないエルフを追い払う男。それからすぐ、二人のエルフは彼の前から姿を消した。
一人になった男は誰に向けてでなく呟いた。
男「……何をやっているんだろうな、僕は」
そう呟く青年の瞳にはつい先程まであった妄執が消えていた。
男「殺されて、憎んで、殺して、また殺されて……。ずっと、僕が進んできた道は正しいと思ってきた……」
脳裏に蘇るのは過去の出来事。心を闇へと落す、悲劇の数々。
男「家族や友人を殺され、立ち直るきっかけを与えてくれた大切な人たちを奪われた。だから、憎んで、憎んで、憎んで、全部を奪ったあいつらを殺すために、自分の身を守るために力をつけた」
短剣を握り締める己の手を見れば、そこにはあるはずのない鮮血がベッタリとこべりついていた。それは、敵であるエルフのものでもあり、自分が傷つけた仲間のものでもあった。
男「でも、途中からそんなことを考える余裕もなくなって、ただやられたからやりかえして、今を生きるためだけに殺した。殺らなきゃ殺られる。それだけになった。
けど、その結果がこれ……か」
自分でも気づかぬうちに、己は憎かった相手と同じ存在になりかけた。ギリギリのところで踏みとどまれたものの、その身が血に染まっていることには変わりない。
男「なんなんだよ。なんでこんなふうになっちゃったんだよ……。
なんで、なんで、なんでっ! 戦争なんてしてるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
憎んで、憎まれて。殺して、殺されて。そうして自分もその連鎖の中に存在していると男は感じた。
だが、その中にこれ以上い続ければ自分だけではなく仲間も傷つくことになるかもしれないという予感を抱いた。
無我夢中で怒りや憎しみに任せ敵を倒し、その結果として仲間が傷つく。今はまだそれを悔いているが、このままずっと戦い続ければそんなことすらも気にならなくなってしまいそうな気がしてならなかった。
叫び声に答える者は誰もいない。答えは自分で出さなければならない。
ギリギリで踏みとどまれたことを活かし、この輪から抜け出すか。それともこのまま輪に残り狂ったように戦い続けるか。
そして、男が選んだのは……。
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