935: ◆jiLJfMMcjk[saga]
2013/07/04(木) 04:44:28.07 ID:0gckZWHD0
"いつか" "どこか"
"それ"は、怒りと怨嗟を抱きかかえたまま、深い暗闇の底に沈んでいた。
"それ"は魂だった。おぞましい呪法で分割された、邪悪なる生命の楔。
"それ"にはかつて、もっときちんとした記憶があった。昏い感情があった。狡猾な思考力があった。
だが、その大部分は失われていた。強力な忘却術によって、魂と一緒に封じられた、当時の自分のほとんどを削ぎ落とされていた。
"それ"の名前は、トム・マールヴォロ・リドルという――
(憎い。憎い。憎い憎い憎いにくいにくいニクイニクイニクイ――)
"それ"からは最早、狡猾な策を練ることの出来る頭脳も、人を誑かす弁舌の才能も失われていた。
あるのはただ、自分をこうまで辱めた存在に対する恨みの感情だけ。
(スクイブが、出来損ない如きが、僕に、もっとも偉大な魔法使いであるヴォルデモート卿に、)
辛酸を、舐めさせた。
――認められない。
そんなものは嘘だ。嘘にしてしまいたい。スリザリンの継承者たる自分が出来損ないに負けるなど、あってはならない。
だけど、今の自分にはその為に必要な力がない。
記憶も、思考力も、その大部分が奪われた。
この日記に残っているのは、その残り滓だ。復讐心と、力への渇望。
それだけがあのスクイブの忘却術から逃れて、いまもなおトム・リドルという人格を辛うじて成立させている――
(くそくそくそくそくそ! 力が欲しい。もう一度、昔と同じだけの力があれば、もう二度とスクイブに後れを取るなんてことは)
『……力を取り戻したい。それが君の願いかい?』
(――!? 誰だ!)
自分しかいない筈の暗闇の中に、だが確かに自分以外の声が響き渡る。
『僕が誰かなんていうのは、君にとって些細な問題の筈だ。
大切なのは、君には願いがあって、僕にはそれを叶える力があるということだ』
(力――)
それは魅力的な言葉だった。ずっと求めていた言葉だった。
本来の彼なら、その言葉を怪しんだだろう。声の主を疑っただろう。
だが今の彼には、そんな余裕も、そして思考力も残されていなかった。
(取り戻せるのか?)
『君が願えば、そうだ。君はかつての力を取り戻せる。僕にはその願いを叶える用意がある。
君には魂と意思がある。最低限そのふたつが揃っていれば、契約には十分だ』
(ならば――)
迷うことは、ない。
(叶えろ。僕に力を寄越せ。かつての記憶を、力を僕に与えろ)
『いいだろう。合意の下、確かに契約は成立した。その願いを叶えよう、トム・リドル。
君の祈りは、エントロピーを――』
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