過去ログ - 京太郎桃子の話
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10:9[sage]
2013/02/11(月) 15:11:17.47 ID:FyZPuZNm0
 これは切開だ。心をこじ開ける余計なお世話。かかわってほしくないところにかかわろうとするような――、
「今、須賀さんは思ってるはずっす。自分は無力、居場所はない、価値を見出せない」
 うまい言葉が見つからない。ゆえに陳腐。しかし痛烈。オブラートはそこに存在せず、
「かつての私もそう。望んでほしい。望まれたい。だけど、それを思われない。必要とされず、気づけば孤独。ようやく見つけた陽だまりは、時が過ぎれば朧に消える。たとえまた会うことができるとしても、いつかは今と同じではない」
 吐息、
「孤独だけではなく、不安まで押し寄せて一切合切を飲み込み、そしてなくしていくような感情がただもまれているような、不安定な感情を宙の間で吊り下げられているような不安とも言い切れない不定形な感情」
 ねえ、と、
「須賀さん。貴方は望んでいるんっすよね? 望まれることを。確固とした立ち居地を。"自ら"にしか望まれない"何か"を」
 何もかもを言い終えたように、口をつぐんだ。
 京太郎を見る。
 目に光はなかった。
 それは何もかもを言い当てられたかのような顔。
「御見それしました、とでも言えばいいのかな、俺は」
 絞り出された声は細く、
「まったくそのとおり、なんだよ」
 頼りがない。
「雑用なんてさ、前にも言ったけど俺じゃなくてもできる。来期の一年生がどうにかする。少なくとも、今の麻雀部で、
 咲は咲じゃないといけない。
 和は和じゃないといけない。
 優希は優希じゃないといけない。
 先輩は先輩じゃないといけない。
 俺は――」
 ああ、
「俺じゃなくても、良い」
 涙がくる。押しとどめていた堤防を決裂させたように――、
「俺の価値は、俺がそこに立つ位置はどこにあるんだろう。部活に顔を出すたび思うんですよ」
 流れていく。
「雑用を引き受けることで、部活動に専念してもらうことができる、そう思うことでやってきた。やってこれた。けど本当は思っていた。見ない振りをしていた。そもそも、俺は必要であるのだろうかって」
 桃子にはそれが理解できた。同じだった。
 自分の価値がどこにあるのかを理解できない。理解することを望めない。
 ――ある意味、悲しいっすよね。
 目の前に居る少年は本当に"普通"の少年なのだろう。
 自身のように影が薄いわけでもない。しかし、
 ――だからこそ、埋もれてしまう。
 これは加治木との交流を経て気づいたことだ。
 本当は、自分も、いわゆる"かつて"望んでいた"普通"となんら変わりないということに。
 人は結局のところ普遍的に普通であり、テレビに出るような芸能人ですら拾われなければただの"人"と変わりがない。
 自分はある種特殊な立場に存在しつつも、結局のところ何にも"普通"と変わりがなかったのだ。
 ただそれが"他者"と違う視点から気づいただけの話で。
 そしてそれゆえに、
 ――やっぱり、同じなんすよね、私と彼は。
 人はあやふやな存在故に、あやふやな状況であることに気付かない。
 自らの立場がいかに砂上の楼閣のような物であろうとも、それが自分の立ち位置だと思い込む。そこには他者が割り込むことができるというのに。
 しかし、気づかない。気づけない。気づこうとしない。気づいてしまえば、
 ――怖いっすもんね。
 そこが立ち位置だと思っていた何もかもがただの夢幻のようであることを、理解することが。
 しかし京太郎は気づいてしまったのだ。
 もしも、周囲の人間が京太郎と同じような人間なのならば、きっと彼はそれに気づくことがなかった。だが、周囲にいるのは全員がスペシャルというやつで、
 ――そこに必要とされている人間っす。
 その違いを対比し、自らの危うい立ち位置を認識し、
 だからこそ飢えている。"望まれたい"その願望。
 京太郎は今、その思いにとらわれている。
 かつて加治木に出会う前、ひっそりと持っていたそれを目の前に居る彼も感じている。
「俺が俺である必要性を望んでほしい。俺じゃなければならない何かがほしい――なのに――」
 言葉が終わる前に桃子は京太郎の手を取っていて、
「私が望んであげるっすよ」
 そう告げていた。



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