2:2[sage]
2013/02/11(月) 15:03:44.60 ID:FyZPuZNm0
都会というにはこじんまりしている。精々、市とでも呼ぶ規模の一意の片隅に小さくまとまった喫茶があった。モダン調で明治を髣髴とさせる。外装は赤いレンガと目立つのに、意識せねば目立たないような喫茶だった。
店内は薄暗く、天井にはゆっくりと回転する三本の羽で構築されたオブジェが釣り下がっていた。
「いいところだね」
「そう思ってくれるっすか? それなら案内した甲斐があったっす」
既に汗は引いていた。
店内は薄く冷房が効いていて、快適だ。
男は、手を上げ、従業員を呼んだ。
「アイスコーヒー、二つ」
従業員は慣れた手つきで注文を書き込み、再度確認をとり厨房に戻った。
「え、と」
軽業、早業ともいえるそれにあっさりとおいていかれた女性の顔を見て、
「ああ、ここは奢り。気にしなくていいよ」
男は言った。
「でも」
女が声を続けようとするが、男は制止を促し、
「男はさ、格好つけたい生き物なのさ。ここは俺に格好つけさせておいてくれよ」
笑う。
「案外気障っすね」
女は釣られて笑った。
「褒め言葉さ」
そういえば、と、
「名前、聞いてなかったな。俺は須賀。須賀・京太郎。清澄高校の一年」
へえ、と女――桃子は声をもらす。
「結構、大人びてるのに一年っすか。ああ、私は桃子。東横・桃子。鶴賀学園の一年っす」
その言葉に、男――、京太郎は少し目を見開き、
「君、和と戦った子か」
「? しってるんっすか?」
知っているも何も、
「まあ、控えのほうで見てたからね」
「もしかして、やるんすか? 麻雀」
ま、ね、と、
「俺は弱いから、ただ見てただけだけどね」
情けないな、と思う。先ほど男は格好をつけたがる生き物と吐いた割にはまったく格好がつかない。
しかし、それを気にしてないかのように桃子は笑って、
「けど、続けてるんっすよね? 麻雀」
「ああ」
即答してみせた。
「なら、いいと思うっすよ。継続は力なりって言うっすしね」
そうだな、と男は思う反面、不安がよぎる。端的に言えば、怖い。麻雀は今、はやっているというよりは世界的に認められた娯楽の一つだった。多くの男女が職業のひとつとしてプロ麻雀師を目指すこともある意味普通だ。
規模は男性のほうが大きいはずだった。
――焦り、だよな。
自分は自分のペースで、そんな思いの反面が京太郎の心を蝕む。
怖い。女性においていかれるということが怖い。
中学の三年を友人として過ごした女性においていかれている現在の状況が、麻雀部の一人だというのにおいていかれているという状況が、否――、
――怖い、か。
恐れている。自分が必要とされなくなる状況が。怖い。
剣予選を突破し、インターハイに出場するとなれば知名度が上がる。そうなれば来年の入部者が増えるのは明確で、しかし、だからこそ、
――雑用としての立場すら失われていく、か。
もしも来年、入部者が現れれば雑用等の仕事も結果としてその入部者、来年の一年生に繰り越されることとなる。
だが、それは今の京太郎の立ち居地すら危うく――、
――って、何考えてんだ、俺は!!
頭を振った。あまりにも嫌な未来予想図を振り払うかのように。そもそも、来年まで雑用をやっているなんて考えている自分がみみっちい。
雑用しすぎて、犬根性が染み付いたのかもしれない。嫌なものだ。
「どうかしたっすか?」
桃子が不安そうに問うてきた。
なんでもない、と京太郎は言いつつ、
「そう言えば、東横さんは何であんなところに?」
京太郎は問う。
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