過去ログ - 京太郎桃子の話
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3:3[sage]
2013/02/11(月) 15:04:46.45 ID:FyZPuZNm0
 ありていに言えば京太郎は雑用で遠出をしていた。
 清澄と鶴賀はほぼ反対の方向に位置し、用事がないならばあまり向かうこともない。
 用事はひとつ、タコスだった。
 部員の一人にタコスをこよなく愛する少女がおり、鶴賀のほうに新しくできたタコスの買出しを命じられたわけである。
 本来ならば断るところだが、京太郎に断る意思はなかった。心理的な要因が閉めるのは確実で、
 ――こういうのがだめなのだろうけど。
 部活内部での立ち居地をどこか必死に守ろうと、断ることができない。
 桃子は笑って、
「あ――、なんて言えば良いんっすかね。まあ、単純に言えば散歩なんっすけど」
 何かを含んだような、笑み。
「ちょっと自分が分からなくなって」
 顔に翳りが表れてくる。
「県予選でうちが負けて、三年の先輩たちが引退して」
 あ、と桃子が笑って、
「そう言えば、前提が分からないっすよね」
 私は、と桃子は、
「私は影が薄いんっすよ。須賀さん、カメラ越しだからわからなかったでしょうけど。普通の人に私は見えないんっすよ」
 手を差し出され、
「握ってみてください」
 京太郎は息を呑み、軽く桃子の手を握った。
 熱がある。肉の感触が自身の手を包んだ。柔らかく、肉感的なそれは確かに生の鼓動を京太郎に穿つ。
「どうっすか」
「どうって、その、柔らかい、かな」
 なんつーか、セクハラみたいなせりふだな、反省。と、思考し、
 しかし、彼女は笑い、
「ありがとう」
 手が離れていく。若干の名残惜しさを感じた。
「私は、私は確かにここにいる。だけど誰からも見えないほどに影が薄い。小さいころからね、私はこうだったんっすよ。ほら、出会ったとき、何度も確認しったっすよね? これが原因なんっす」
 少しだけ楽しそうに、
「いつもいつもつまらない。一言で言えば灰色みたいな毎日は、先輩のおかげで終わった。終わったように見えたんっすよね」
 しかし、寂しそうに、
「けど、やっぱり長くは続かないみたいで、ね。私をよく見てくれていた先輩も、大学に進学するとかで、特別補修だとかで顔を現すことが少なくなって。麻雀部での私の居場所が分からなくなったんっすよ」
 それは、と、
「私はある意味、その先輩のために麻雀部に在籍していたから。そこに居続ける意味の支柱が抜け落ちたみたいで、なんというか空っぽみたいな――」
 似ているな、と京太郎は思った。
 彼女は自分に似ている。立ち居地に悩む。自分と。
 まるで、空気みたいな――、
 と、
「あはは、いや、すいません。急にこんな話振られても困るっすよねー」
 彼女は笑う。無理をしたような、笑み、
 京太郎は堪らず、
「良いなぁ」
 そんな言葉を漏らしていた。



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