144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/25(月) 00:02:56.26 ID:4Y9bOK7Ho
明日香は俯いて小刻みに体を震わせていた。
「・・・・・・明日香?」
明日香は何も答えようとしなかった。
これで何度目かな。僕はそんな明日香を見てそう思った。短い間に仲の悪かった彼女と
仲直りし、お互いに好きになり恋人同士になった。そんな明日香が僕の愛情を疑い迷う素
振りを見せるのは何度目なのだろう。奈緒のことは正直に言うとショックだったけど、今
の彼女には池山にそんなことを依頼したときのような奈緒への悪意や疑いがないことを僕
は信じたかった。
「今でも奈緒のことが嫌い?」
「・・・・・・そうでもない」
明日香は少し間をおいて小さな声で答えた。
「奈緒が僕を傷つけるために僕に近づいたって今でも思っているの?」
明日香は首を振った。
「僕を救おうとしたんだろ? そのためにあんなことを池山に頼んだんだよね」
「うん・・・・・・。本当にごめんなざい」
「もういいよ。僕のためにしてくれたことだし。でももう二度とそんなことはしないでく
れ。恋人はおまえだけだけど、自分の妹がおまえのせいでひどい目にあっていたら僕はも
うおまえのことを好きでいられなくなる」
「ごめん・・・・・・ごめんなさい」
「わかってくれればいいよ。もう終ったことだし、ずっと一緒にいよう」
「お兄ちゃん、本当に許してくれるの」
涙目で明日香が言った。僕には今はもうそれだけで十分だった。彼女の罪は僕のためを
思ったことだったから。
「うん」
僕はそう言って明日香に笑った。
でも、本当は何も終っていないのかもしれない。僕の片腕に抱きついて泣いている明日
香の頭を撫でながら僕は考えた。明日香の真意に気がついた池山はもう奈緒を襲うことは
しないと思う。兄友も明日香も池山は見かけによらず常識的な男だと言っていた。
それでもよく考えてみれば今日池山に会おうとした目的は何も果たせていない。女帝の
商売も、そのことによる叔母さんの危険すらも何も解決していないのだ。
今日は本当は有希のことを聞きだすつもりだったのだけど、それどころではなかった。
「帰ろうか」
僕は明日香に言った。
「うん」
僕たちは結局十分ほど滞在しただけでその店を後にした。
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