154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/27(水) 23:52:21.29 ID:/HL4si7bo
僕は再び記憶を探った。幼少の記憶が極端に欠落しているせいで、これまで自分には記
憶力が備わっていないのだと思っていたのだけど、最近ではその考えを改め出したところ
だった。むしろ、明日香より僕の方が記憶力はいいのではないか。
このときも僕はすぐに女性二人の質問とそれに対する明日香の説明を思い出すことがで
きた。確かに二人は明日香に同情を示しながら優しい口調で話してはいたけど、その質問
は徹底していた。その場で起こったことは全て明日香から聞き出そうと決めていたのだろ
う。
同時にあのとき感じていた違和感も記憶に蘇ってきた。あのときの女性たちは、特に池
山と飯田の会話の内容を覚えている限り全て話すように明日香に求めたのだ。今から思う
と、明日香への暴行傷害の捜査というよりは池山と飯田の関係を知りたかったみたいだっ
た。僕はそのことを平井さんに話した。
「そうか」
平井さんは言った。あれは、女帝の組織する脱法ドラッグの販売組織を調べているのな
ら納得できる質問だった。そう考えるとあのときの女性警官は一見明日香に優しくし同情
しているようだけど、実は飯田の明日香への暴行なんてどうでもよくて、本心では池山と
平井の関係、さらには彼らと密売組織との関係を知りたかったのかもしれない。
明日香は池山の販売サイトのこと見知っていたようだけど、女帝のことは知らないはず
だ。なので僕はこのとき思いついたことを平井さんには口に出して言えなかった。でも、
多分平井さんなら気がついていたと思う。
「このことは誰にも言わないでいてくれ。おまえらがこれ以上巻き込まれることはない。
俺の方で少し調べてみるから」
「わかりました」
「・・・・・・兄ちゃん、俺もあんときは炊きつけるようなことを言っちまって、ちょっと反省
しているんだ。もうおまえはこの件から手をひけ」
手をひけも何も僕はまだ何もしていない。自分の恋愛関係の整理にかまけていただけで。
「お兄ちゃん、何の話?」
明日香が不安そうに聞いた。
「何でもない。わかりました。あとはお任せします」
「おう。何か危ないことが起こりそうならいつでも相談しろよ」
平井さんがそう言った。僕は自分が何となくこのくたびれた感じの刑事に好感を抱き始
めていることに気がついた。
「お兄ちゃん」
「どうした?」
「叔母さんのこと・・・・・・話しておいたほうがよくない?」
余計なことをと一瞬思った。叔母さんの身に起きたことを考えると、僕たちが勝手に警
察に話していいのかわからないのに。それでも叔母さんがこの先も安全かどうかはわから
ないことを考えると、明日香の心配も無理はないのかもしれない。明日香は玲子叔母さん
のことが本当に好きだった。それに今日は池山に叔母さん関係の事実を聞き出すはずだっ
たのが、それを果たす前にあいつは飛び出して行ってしまい、挙句に誰かに刺された。も
う警察の力を頼らなければいけない時期だったのかもしれない。
「わかった。僕が話すよ」
明日香がうなづいた。
「まだ何かあるのか」
平井さんが不審そうに聞いたとき平井さんの携帯が鳴り出した。
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