過去ログ - ビッチ・2
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240:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/12(水) 23:16:15.31 ID:kCQODl6lo

 奈緒の編んでくれたマフラーは、駅から外に出た僕の首を寒気から守ってくれた。

 僕は明日香のこと振らないよ。

 僕は明日香にそう言った。その決心は奈緒と顔を会わせた今でも変っていないと思いた
かった。明日香のことをずっと大切にして行こうと思ったそのときの気持は変わっていな
い。奈緒と別れたかれたことに対して、明日香を責めようとは思わなかった。明日香には
悪意はないどころか、純粋に僕のことを考えて行動してくれた結果なのだから。

 だけどそれだけでこの話を割り切れるかというとそんなことはなかった。明日香の前で
は表情に出さないようにしていたけど、僕の頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していた。

 明日香に告白する前の僕は奈緒のことが本気で好きだったし、奈緒も僕が好きだと言っ
てくれた。明日香の善意の行動のせいで僕は結果的に奈緒が自分の実の妹だと思い込み、
奈緒のことを諦め忘れることにしたのだ。

 ただ、奈緒が僕のことを実の兄だと気がついたのは別に明日香とは関係ない。僕の名前
を聞いて、この人は昔つらい別れを強いられたお兄ちゃんなんだって奈緒は気がついた。
それでもなお、奈緒はそれでも僕と付き合い続けたいと考えた。

 こんな状況に至った原因は明日香というよりは過去にある。奈緒には僕と違って一緒に
暮らしていた頃の記憶があるらしいけど、それでも奈緒には遡って僕と一緒に暮らし始め
た頃の記憶まではなかったようだ。

 奈緒が真実を知ったらどうするのだろう。実の兄とでもいいと言い切った彼女だけど、
実際にそれを貫くほどの覚悟はなかったのではないか。だから、奈緒は妥協して僕とは仲
のいい兄妹であることに満足しようとしているのだ。

 あのとき奈緒は言った。



『お願いだからあまり悩まないで。お兄ちゃんが明日香ちゃんのことを好きになったのな
らそれでもいいから。さっきお兄ちゃんが言ってたじゃない? あたしが妹だとわかる前
だったら明日香ちゃんのことは振っていたって。あたしにはそれだけで十分だから。これ
以上お兄ちゃんに何かしてほしいとか望まないから』



 奈緒が真実を知ったらどうするのだろう。

 再び僕は考えた。明日香への誓いを何度も繰り返した僕には、当然ながら奈緒に真実を
告げるなどという選択肢はなかった。むしろ知られては困る。でも、あの女帝がわざわざ
明日香にこんな話を告げ口してくることに何らかの意味があることは明白だった。このま
ま静かなままでいられるとは思えない。僕がこの秘密を胸にしまって明日香に口止めした
としても、その情報の大本は有希なのだ。彼女が何らかの理由でこのことを知り合いに話
したり、あるいは奈緒自身に直接話したりしたら。

 さらに言えば、明日香と奈緒との関係のことはひとまず置いておくにしても、過去の記
憶に乏しい僕には、今までになかった欲求が湧き出してきてもいた。これまでは今がよけ
ればいいというか、今を凌げればいいと考えるだけで精一杯だった。

 でも僕と奈緒の関係や過去の出来事について、ここまで二転三転する情報を聞かされる
と、さすがに過去のことを知りたいという欲求も胸の奥から生じてくる。

 僕と奈緒は、過去のいったいどういう出来事の結果一緒に育てられ、兄妹して育てられ
たのか、そしてどういう状況の中で引き離されたのか。僕はそのことを知りたい。自分で
思い出せれば一番いいのだろうけど、苦労して心の奥を探っても何も役に立つ記憶は見つ
からない。

 そんなことを考えたのは初めてだった。奈緒には全てを秘密にして現状の関係を守る。
明日香の気持を悩ませずようやく落ち着いてきた奈緒の気持を平静に保つためにはそれし
かない。有希のことはさておきそれを考慮すれば自分の好奇心なんか抑えるべきだったろ
う。でも、一度気になってしまった自分の過去への興味はなかなか収まりがつかなかった。


 過去を知るためには具体的にどうすればいいのか、僕にはよくわからなかった。

 ・・・・・・これからどうしよう。校門をくぐりながら僕は思った。


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