過去ログ - ビッチ・2
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286:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/04(木) 23:42:44.90 ID:j39CgiDpo

「パパも明後日には外国から帰ってくるよ」

「パパが?」

 これまで黙っていた奈緒が小さな声を出した。

「そうだよ。パパが帰ってくるまでお姉ちゃんたちと一緒にいよう」

「ママは」

「え?」

「ママも一緒?」

「ママはいないのよ」

 あたしは慎重に言った。身内に虐待を受けた子どもは直ちに虐待した身内を嫌いになる
わけではない。さっきケースワーカーの話をろくに聞いていなかったあたしだけど、どう
いうわけかその言葉だけは耳に残っていた。不用意に麻紀さんを責めてはいけない。

 でもその心配は無用なようだった。

「ママ恐い」

 奈緒が小さく呟いた。

「ママがいるなら僕たちは行かない。パパがお迎えに来るまでここにいる」

 奈緒人があたしを見てはっきりと言った。

 あたしは奈緒人と奈緒を二人一緒に抱きしめた。二人は驚いて身を固くしたようだった。

「ママなんかいないよ。来てもお姉ちゃんが追い返しちゃうから安心していいよ」

 しばらくしてあたしの腕の中でようやく二人が大きな声で泣きじゃくり始めた。

「ようやく泣いてくれました」
 背後でケースワーカーが両親に話していた。「これまでこの子たちは泣かないしろくに
話もしてくれなかったんです。でもこれで多分大丈夫だと思いますよ」

「もう大丈夫だよ」

 二人の背中を撫でながらあたしは言った。このときはまだこの先に待ち受けていた困難
を理解していたわけではないけど、兄貴が不在の間はなんとしてでもこの子たちを守ろう
とあたしは決心していた。

 そのせいで彼氏との卒業旅行はキャンセルとなった。多分、内心では相当がっかりして
いたはずだけど、事情を聞いた彼は気にするな応援するよと言ってくれた。

 このときはまだ彼も寛容だったのだ。


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