301:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/08(月) 23:55:14.07 ID:4z1h5cCXo
やがてあたしは同期入社の人たちや指導してくれるメンターからやる気のない駄目社員
の烙印を押されるようになった。そのままやる気や意義を見出せないまま研修期間が終了
し、あたしは法務部の訟務課というところに配属になった。ここは取り引きに関わるトラ
ブルに起因する訴訟や社の知的財産所有権に関わる訴訟への対応を行うセクションだった。
通常のトラブルは、初動はお客様相談室や総務部の渉外課が対応するのだけど、それがこ
じれて訴訟沙汰になった場合は訴務課の出番となる。
実際の訴訟代理委任は複数いる顧問弁護士に依頼するのだけれど、対応方針や案件に応
じてそれぞれ得意分野が異なる顧問弁護士を選び、係争中は社の窓口として弁護士と共に
法廷の場で相手方に対抗するのがあたしたちの仕事だった。さすがに司法試験合格者まで
はいなかったけど、訟務課では課長を含めスタッフは法学部出身者ばかりで固められてい
た。
あたしは総合職として入社したので将来的には経営企画や営業に回ってもらうけど、最
初は大学の専攻を生かして法務部で経験を積むように上司から言い渡された。この仕事に
対しては、もう以前ほどの熱意は感じなかったけど給料分はしっかり働こうとあたしは思
った。
その日、あたしは係長と二人で担当案件の相談をしに担当してくれる弁護士の事務所に
伺うことになっていた。実家で夜中までチェックした資料をカバンに詰め込むとあたしは
いつものように混みあった電車で一時間以上かけて出社した。
「おはようございます」
室内にはもう半分以上の社員が出社していた。大半の人はパソコンを立ち上げてその日
のスケジュールをチェックしたりニュースサイトでニュースを確認している。それは始業
時間前の少し中だるみの時間だった。あたしはこれで何度目になるか、携帯のキャリアか
ら届いた使用明細を眺めた。基本料金以外にわずかだけど通話料金が発生し請求されてい
る。
奈緒人と奈緒は連絡を取ることに成功したのだ。
金額からすると毎日長時間電話をしている感じではない。二人は思っていたより上手に
この連絡手段を使っているようだった。多分、会う日時や場所を打ち合わせるためだけに
限って通話しているのだろう。細々ながらも通話料金が継続して発生しているところを見
ると、今のところその秘密は保たれているようだ。
どちらかの親に気が付かれたらその瞬間から通話料金はぴったりと途切れて請求されな
くなるに違いない。この請求書があたしに届くということは、奈緒人と奈緒が密かに繋が
りを保てているという証拠なのだ。
やがて九時になると社内放送で始業時間のチャイムが響いた。あたしは明細書をしまっ
て自分のシマの係長席を見た。係長は席にいないしPCも蓋を閉じられたままだ。
「あの。係長はどうしたんでしょうか」
あたしは隣席の主任に声をかけた。
「ああ。さっき電話があってお子さんが熱を出したんで今日は休むってさ」
「はい? 今朝は一番で係長と一緒に担当弁護士のとことに伺うことになってるんですけ
ど」
「そうだっけ? 係長は何も言ってなかったけど」
主任はイントラのスケジュールアプリで係長の日程を確認し出した。
「あれ。本当だね。係長忘れちゃったのかな」
無責任もいいところだとあたしは思ったけど、短い間とはいえ奈緒人と奈緒を育てた経
験のあるあたしには子どもの具合が気になる親の気持ちもよくわかった。
「係長ってさ、奥さんが浮気して離婚してるんだよね。それで男手一つで保育園に通って
いるお嬢さんを育てているからさ。君も腹立つだろうけど許してやってよ」
「それはいいですけど。先生のところには誰と一緒に行けばいいんですか」
入社してわずか半年のあたしが一人で行けるはずがない。それにこの案件はかなり社に
とって重要な案件だと聞かされてもいたし。
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