過去ログ - ビッチ・2
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302:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/08(月) 23:56:14.83 ID:4z1h5cCXo

 主任はあたしが配属されている知的財産所有権グループの課員の日程を眺めた。ここで
ようやくこれまでのん気そうだった主任が難しい声で言った。

「まずいな。みんな予定が入ってる」

「どうしましょう? 先生に電話して予定をキャンセルしてもらいましょうか」

「そんな失礼なことができるか。だいたいあの先生は多忙なんだし今日を逃したら次は一
月後とかになるぞ」

「だってそれじゃどうすれば」

「おい舘岡」

 課長が奥の席から主任に声をかけた。あたしたちの話が耳に入っていたみたいだった。

「はい」

「結城だけで行かせろ。もうそろそろ大丈夫だろう」

「ですが課長」

「できるな結城」

 課長があたしの方を見た。

「あ、ええと」

「ええとじゃねえよ。篠田と打ち合わせを重ねてるんだろ。それをそのまま先生に説明す
るくらいできんだろうよ」

「あ、はい」

「キャンセルすると篠田の責任になるぞ」

 係長には配属されてからお世話になっている。奈緒人と奈緒との一件以来腑抜けのよう
に勤務しているあたしを根気強く指導してくれたのは篠田係長だった。同期やメンターの
噂にも気にするなと言ってくれたのは係長だった。やる気のないあたしでもここで係長の
ピンチを放置しておくわけには行かなかった。

「で? どうよ結城」

 課長が言った。

「できます。やらせてください」

「おい、結城。大丈夫なのか」

 主任が心配そうに言った。

「結城がやるって言ってるんだから任せろ。舘岡は過保護なんだよ」

 主任は不安そうな表情で黙ってしまった。こうしてあたしは一人で弁護士の所に向う羽
目になったのだ。

「こちらでお待ちください。先生はすぐに参りますので」

 都心の高層ビル内の綺麗で広々としたオフィスで、あたしは都心を一望にできる広い応
接室に通された。部屋の前に第四応接室とプレートが掲げられていたところを見ると、他
にもこういう部屋が事務所内にあるのだろう。さすがは有名な弁護士の事務所だ。

 有名な弁護士のようだけどわが社は有力なクライアントだったので、あたしのような若
輩者に対しても事務所の事務員の女性はすごくていねいに応対してくれた。企業の力で自
分の力ではないのだけど、そのていねいな扱いにあたしは少しだけ緊張が解けた。

 待たされている間に説明用の資料を確認していると、二十分ほどしてドアをノックする音が室内に響いた。

「お待たせしました」

 ドアが開いてその偉い先生が入ってきた。あたしはその人を見てすぐに気がついた。

「太田です。はじめまして」

 それは麻紀さんの代理人の太田弁護士だった。


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