過去ログ - ビッチ・2
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307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/16(火) 22:44:43.96 ID:AhPKC+s4o

「まあ、そんなことはいいや。で、結城は何で辞めたいの? 就活してたときからうちが
第一志望だったんだろ? それともそれは面接のときのリップサービスか」

 係長がようやく本題に入った。

「いえ。それは本当だったんですけど、今は何か就職活動してた頃と違って仕事にモチ
ベーションを保てないというか」

「太田先生と三人で完璧な勝利を収めただろ? あれでも結城にとっては達成感も高揚感
も感じられなかったのか」

 少しだけ真面目な表情で係長が言った。

「それはあたしも嬉しかったんですけど」

「おまえ、何かやりたいことがあるの? ひょっとして司法試験受けるのか」

「はい?」

「法務部には何年間に一人は出るんだよな。就職したことを後悔して司法試験に挑戦しよ
うってやつが」

 司法試験などどうでもいい。まあ、実家や世間が無職引きこもりニートじゃ納得しない
なら法科大学院に通うか予備試験を受験するくらいはしてもいいとは思ってたけど。

「別にそういうわけじゃないんです」

「じゃあ、辞めてどうすんの。結婚して専業主婦になるってことか?」

 ・・・・・・そうなれればそうなりたかった。結婚はしなくてもいいけど、奈緒人と奈緒を育
てて、二人が一人前になって巣立つまであの子たちの母親でいてやりたかった。その可能
性がなくなった今、正直会社を辞めても何をしていいのかわからない。ただ、こんな中途
半端な気持ちのまま社に残りたくないだけで。

「もしかして誰かにプロポーズされた? いや、それにしてもいきなり仕事をやめること
はないだろ。子どももできないうちから専業ってよ。うちの総合職の女性は出産してもや
めるやつは少ないんだぞ。経営企画部長だって高校生の子どもがいる主婦なんだし」

「結婚なんかしません。付き合っている人だっていませんし。自分でもわからないんです。
でも、このままここにいてもあたしにも社にもどちらにとってもいいことはなさそうで」

「何があったか知らないけど、決意は固いのか」

「はい。すいません。来月で辞めようと思います」

 係長はため息をついた。

「まあ、それなら仕方ないか。正直もったいないと思うけど。おまえなら絶対将来はボー
ドに入れる玉だと思ったんだけどな」

 ボードというのは取締役会の俗称だ。係長は入社してわずか半年余りのあたしが将来は
重役になれると言っているのだ。引き止めるためにしたって嘘臭い話だった。

「おまえ、何かあったのか。結城がどうしてもというなら無理には引き止めないけど、せ
めて理由くらい正直に話してくれよ」

 係長にはお世話になっていた。人に話せるほど心の整理がついていたわけではないけど、
せめてもの誠意としてあたしは係長に自分の気持ちを話すべきかなと考え、でもこんなプ
ライベートなことを自宅で幼いお嬢さんが待っている人に時間を取らせてまで話していい
のか、あたしは迷った。


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