377:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/09/28(土) 22:38:41.38 ID:mxiU2Byio
「まあ来ちゃったんだからしかたない。座れよ」
不意にバーテンが言った。文句をつけたわりにはあっさり引いた形だったけど、有希に
はその変心の原因は自分の容姿にあるということがわかった。この三十代くらいの男も、
中学生に過ぎない自分に興味を惹かれたのだろう。興味というかはっきり言えば自分と仲
良くなりたいと思ったに違いない。有希は微笑んだ。
「ご迷惑だったらあたしは帰りますけど」
「いや、そんなことはねえけど」
期せずしてバーテンと池山の発言が綺麗に被った。二人は気まずそうにお互いから視線
を逸らした。
「素敵なお店ですね」
有希はカウンターのスツールに腰掛けて言った。カウンターの反対側にはボックス席が
三席ほど並んでいたがそこには客は一人もいなかった。カウンターの端に若い男が一人腰
かけて黙って酒を飲んでいるだけだ。
「君、名前は」
渡という男が聞いた。
「太田有希と言います」
「ユキちゃんさ。こんな時間に外出してていいの。家の人が心配するんじゃない?」
「大丈夫です。パパはお仕事でいつも夜遅いか帰ってこないし、ママはいないから」
「おまえ何飲む?」
渡と有希の会話に割り込むように池山が言った。有希は久し振りに高潮感が胸の奥に湧
き上がってきたことに気がついた。この二人はあたしを取り合っている。中学生のまだ子
どもであるはずの女の子を。池山はともかく大人であるこの渡というバーテンも自分に関
心があるのだ。ここを最初の足掛りにしよう。ゲーセンでこの池山に目を付けたことは成
功だったのだ。
「じゃあミルクティーをいただけますか」
「え」
渡は驚いたような表情を見せた。「ごめんね。酒以外のソフトドリンクだと、ジュース
かウーロン茶くらいしかないんだ」
「じゃあウーロン茶を」
後の話になるが、その日以降このSPIDERにはダージリンとオレンジペコの茶葉が常に用
意されるようになるが、それを注文するのはいつも有希だけだった。
「渡さんって素敵ですね」
渡が新たに入ってきた数人の客の相手をするために彼らのそばを離れたときに、有希は
池山に言った。
「それはどうでもいいけど。おまえさ。マジでいったい何しに来たの」
彼は面白くなさそうな表情でそう言った。
「だから池山さんとお友達になりたくて」
「本当かよ。俺より渡さんのことばっか気にしているじゃねえか」
「そんなことないですよ」
ここでへそを曲げられてはまずいので、有希は可愛らしい笑顔を池山に向けた。
459Res/688.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。