過去ログ - ビッチ・2
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41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/26(火) 00:16:42.08 ID:R3OcIW1Do

 麻季が長い話を終えたとき、それが残酷でひどい内容だったにも関わらずどういうわけ
か僕の心の中には彼女への憎しみは生じなかった。ただ、今さらだけど本当に麻季との生
活は終ったことを実感し、そして帰国して以来初めて彼女への憐憫と少しだけ後悔の念が
心の中に去来した。

 麻季は怜菜の死やその意図については明らかに過剰反応していたとしか思えない。でも
彼女をそこまで追い込んだ責任が僕にないと言いきれるかというと、そんな自信はなかっ
た。これまで僕は麻季のことを大事にしてきたつもりだ。でも一度だけ麻季のことなんか
どうでもいいという感情に囚われ、そしてそれを彼女に対して隠すことすらしなかったこ
とがあった。

 それは怜菜の死を知った直後のことだった。混乱して泣く麻季の姿はそのときの僕の感
情を動かすことはなかった。これまでこれだけ麻季を大切に思い、彼女を傷つけないよう
に過ごしてきたというのに。

 そのときの僕は怜菜の悲惨な死に心を奪われていた。でも今にして思えばあのときは僕
と同じくらいに、麻季は傷付いていたのだろう。親友の死とその親友と自分の夫とのつか
の間の交情を知ったことで。

 依然として麻季が子どもたちを追い詰めた事実には変りはないし、太田先生の受任通知
で僕を貶めたことにも変りはない。それでも僕は麻季の告白から、彼女の心の異常な変遷
を知ることができてしまった。そして知ってしまうと、麻季の心変わりに悩んでいた時の
ような何を考えていたのかわからない彼女への憎しみが消えて、その感情は憐憫と後悔に
置き換わったいったのだ。

 これは常識的な判断ではない。奈緒人と奈緒が仲が良すぎることなんか気にすることで
はない。でも僕には一見して支離滅裂な麻季の言葉から、彼女の感情の動きや彼女なりの
ロジックを推測することができた。誰よりも深くそして多分正しく。僕が麻季の気持を察
することができることが破綻する前の僕と麻季との絆を深めていたのだ。

 唯にそう言われてから、僕はこれまでは麻季は敵だと思うようにしていた。というより
僕の知っていた麻季はもういないのだと、僕のことを誹謗中傷しているこの麻季は僕の妻
だった女ではなく見知らぬ女なのだと考えようとしていた。

 でもこの日深夜の居酒屋で僕は不用意にもかつてのように麻季の言葉足らずの説明を脳
内で補正して彼女の真意を理解してしまった。それは客観的には間違った考えだったけど、
麻季にとってはようやく見出した真実なのだということを。

 僕は不用意に麻季の泣き顔を見てしまった。生涯、麻季につらい思いはさせない。かつ
ての僕が自分に自分に誓った言葉が再び僕の脳裏に思い浮んだ。

 このときの僕の決心は、結局この後の僕をずっと苦しめることになった。


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