71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/04(月) 00:09:34.15 ID:fb47vGvAo
でもそれは僕の誤解、僕の思い込みに過ぎなかったのかもしれない。
「そういうことなんだ」
奈緒が言った。これまで優等生的な優しい美少女だった彼女の印象が覆るくらいに冷た
く他人行儀な表情で。
「奈緒?」
「奈緒じゃないでしょ」
奈緒が切り捨てるように言った。
僕は本気で狼狽した。明日香との仲を奈緒に怒られたからとかそういう意味ではない。
目の前にいる奈緒の豹変に驚いたからだ。これが兄妹の再会に涙を流して僕に抱きついて
きた奈緒とは思えないし、付き合っていた頃のような一見控え目だけど実は積極的で明る
い印象の奈緒でもない。それに一度有希とメアドを交換したとき、付き合い出して初めて
奈緒は僕に嫉妬したのだけど、そのときだって彼女は俯いて涙を浮べて黙っていたのに。
「浮気していたくせに、偉そうにあたしを呼び捨てにしないでよ。明日は絶対に迎えに来
て」
奈緒は激情を抑えて、そして冷たいといっていいほど冷静に僕に言った。そういう奈緒
の表情を見るのは初めてだった。
「・・・・・・行くけど」
「一緒に食事してくれないならそれでもいいけど、話がしたいんで時間だけは空けておい
て」
「奈緒、おまえさっきから何言ってるんだ」
「あたしのことを奈緒って言わないで! おまえって呼ぶのもやめて」
「じゃあ、何て呼べば」
「うるさい、死ね!」
奈緒は僕が初めて見た鬼のような形相のまま、まだ駅に着く前の電車の中で僕から離れ
ていった。これではまるで仲直りする前の明日香のようだ。
奈緒を見失った僕は仕方なくそのまま登校した。今週休んだことへの兄友や女さんの追
求を交わした僕は、奈緒の突然の豹変振りに悩みながら帰宅した。
帰宅すると驚いたことに父さんと母さんがリビングで明日香と一緒にいた。珍しいこと
もあるものだ。たまたま両親が二人とも仕事が早く終ったのだろうか。
「おかえりなさい」「おかえり」「おかえりお兄ちゃん」
父さんと母さんと明日香の声が同時に僕を迎えてくれた。でもその声は不自然なものだ
った。僕はすぐにそのことに気がついた。
「父さんたち何でこんな時間に家にいるの」
僕が戸惑って質問すると母さんが微笑んだ。
「ほんとに偶然なのよ。あたしも帰ってパパがいたからびっくりしちゃった」
「僕も驚いたよ。こんな早い時間にママがいるなんてな」
どういうわけか父さんと母さんはいつもと違って白々しいというか棘のある口調で言っ
た。いつもこっちが恥かしくなるほど仲がいいのに。
「お兄ちゃん、二階に行こうよ」
明日香が僕の袖をそっと引いた。
「でも・・・・・・」
「夕食の支度ができたら呼ぶからね」
母さんが僕の方を見ないで小さく言った。
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