917:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 09:16:54.49 ID:nQ4y3AGI0
春川英隆(男子十四番)はベレッタM92Fを下ろした。
眼前では、英隆の放った銃弾を背中から浴びた荻野千世(女子三番)がアスファルトに血の池を作りながら倒れて虫の息となっており、小石川葉瑠(女子五番)が千世の名前を必死に呼び、相葉優人(男子一番)は瀕死の千世を見て震えていた。
ああ、晴れてこれで俺も人殺しになるんだね…
引き金を引いたのはこれで二度目。
一度目は幼馴染の財前永佳(女子六番)と親しく、英隆の親友の日比野迅(男子十五番)が大切に想っている水田早稀(女子十七番)が相手だった。
初めてだったからなのか、覚悟を決めたはずなのに迷いがあったからかはわからないが、弾は早稀の命を奪うことはなかった。
しかし、今回は違う。
千世の様子を見る限り、そう長くはないだろう。
見慣れぬ部屋で目覚め、これが班対抗戦という特殊ルールが設定されたプログラムだと知らされ、班のメンバーが幼馴染の永佳・広瀬邑子(女子十五番)と親友であり永佳と付き合っている望月卓也(男子十七番)だということがわかった時、英隆は優勝するために他のクラスメイトを殺める決意をした。
これは決めていたこと、覚悟していたこと。
しかし、人の命を奪う重圧というのはこんなにも重いものなのか。
酷く気分が悪く、心臓に重石を乗せられたかのような体の内側からの重みを感じる。
永佳は平然としているように見えたけれど、宍貝雄大(男子八番)を射殺した時には同じような重みを感じていたのだろうか。
せめて、最期をちゃんと見届けよう…
ごめんね、荻野さん…でも俺は…俺たちは、死にたくないんだ…
「ああ…あああ…」
震えた言葉を成さない声が聞こえ、英隆は視線を千世から外し――目を見開いた。
ただ体を震わせながら倒れた千世を見下ろしていた優人が、その手に黒く光る英隆のそれとは形状がかなり違う拳銃(英隆の知るところではないが、コルト・パイソンという名の回転式拳銃だ)を両手でしっかりと握り、その銃口を、千世に向けていた。
「優人……」
少し下がったところで事の成り行きを見守っていた卓也が今にも泣き出しそうな目をして優人を見つめていた。
本当なら「やめろ、何やってるんだ」と叫んで優人を力ずくでも止めたいのだろうが、自身が手を汚していないとはいえ加害者側にいるのだから、そんなことができるはずがない。
その隣では、邑子も顔色を青ざめさせて優人と千世を交互に見ていた。
「優人!?
何やってんの、アンタッ!!」
葉瑠が叫んだ。
普段の優人であれば、大好きな葉瑠に一喝されれば怯んで「葉瑠ごめんー!嫌わないでー!」などと言って泣き真似をするのだが、優人は青縁眼鏡のレンズの奥にある一重の目を血走らせ、葉瑠の言葉には反応せずに小さく口を動かしていた。
「…たくない死にたくない死にたくない死なせたくない死なせたくない死なせたくない
…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…
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