987:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:23.10 ID:nQ4y3AGI0
坪倉武(男子13番)は、近くに誰もいないか警戒し、辺りを頻繁に見回していた。そして辺りに誰の姿も見えないことに安心した武は、茂みの中をゆっくりと進んだ。
武が進むたびに、茂みがガサガサと大きな音を立てていたのだが、武は緊張のあまりそのことに気がついていなかった。誰かが付近にいたとしたら、茂みの音のせいで武のいる場所はバレバレである。それに気が付かないほど、武は放心状態であったのだ。当然自分の近くに、ついさっき殺人を終えたばかりの大介が潜んでおり、次に武を狙っているなど、知る由もなかった。
次の一歩を踏み出したとき、茂みの中の枝の一本がデイパックに引っかかった。
くそっ!
武はあせりながら引っかかっている枝をデイパックからはずした。はずした弾みで再び茂みからガサッと大きな音をさせてしまった。だが案の定武はそのことに気がつかない。
坪倉武はもともとクラスの中ではおとなしい存在で、その上かなりドジなところがあった。そんな彼がこの殺人ゲームを順調に行えるはずがなかった。それは武自身も自覚していた。
彼がすでにやってしまったドジ、例えばのどが渇いた武は無計画に水を飲んでいたため、デイパックに入っていた水もすでにペットボトル残り一本、それも一本の三分の二程しか残っていないのだ。飲料水をどこかで確保できるのかどうかも分からない、この殺人ゲームの最中、慎重に事を進める者ならもっと計画を持って飲むであろう。だが武にはそれがなかった。武は水を飲み続け、そして水の残りが少なくなり、初めて自分のやってしまったミスに気が付いたのだ。
そんなドジな武が次の一歩を踏み出した時だった。武を狙っていた“ハンター”がついに姿をあらわしたのだ。
「よう。武」
突然目前の茂みの中から、狩谷大介が出てきたので驚いた。
狩谷大介。男子の中でのポジションは上の方でもなければ、下の方でもない。言い方を変えれば全てにおいて可も不可もない男だ。
勉強はそこそこ、運動もそこそこといった、特に目立つような人物でもない。とにかく普通の男子生徒であったといえる。さらに言い方を変えれば全くの凡人だとも言えるだろう。
ただ一つ大介の特徴をあげるとすれば、裏で何を考えているか分からないというちょっと怪しい部分である。親しい友人と楽しそうに話していると思いきや、誰にも見られていないときに、他の友人に睨み付けるような、冷たく怖い目を向けていたりしていることがしばしばあったのを、武は知っていた。武は普段から大介のそういう“何を考えているかわからない”という部分が本当に怖いと思っていた。
「か、狩谷くん…」
驚きと不安のあまり、声が怖がった調子になってしまった。それを見た大介が返した。
「オイオイ武、声がふるえてるぞ。お前まさか俺のことを怖いと思ってるのか?」
大介の言うとおりだ。確かに武は大介に対して少なからず恐怖を感じていた。なぜなら目の前に現れた大介の手には、刃先の鋭い鎌が握られているのが見えるからである。
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