過去ログ - 伊織「さようなら」
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10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:43:42.62 ID:fz9LGbgw0

話を戻すけれど、猫そのものになった私は、まさに気分のままに社交会を出た。
パパはいつまでも話の途中だったし、使用人もせわしなく働いていた。
そこまでずっと猫をかぶって『水瀬財閥のいい娘』を演じてきた私を心配するものはいなかった。

きっと思っていたのよ。誰も彼も、私がいい娘であり続けるのだろう、って。
まさか逃げ出したりするだろう、なんて思いもしなかったでしょうけれど。

車でしかまともに移動したことはなかったから、なかなか骨が折れた。
でもとっても新鮮だった。景色をガラス越しにしか見ない私にとっては。
一歩一歩を踏みしめて街の景色を眺めて、街の明かりに目を奪われて。

社交会なんかより、ずっとずっと綺麗で…私には、希望の光のように見えた。
そのとき、お腹がなった。ずっと挨拶ばかりしていて、何も食べていなかったから。
基本的に社交会が終わってから遅い夕食をとっていた私には、今がチャンスだと思った。

普通の人が食べているものが食べたい。普通の人が飲んでいるものを飲みたい。
普通の人が見ている景色を見たい。普通の人と、同じように。
世間を知らない私には、お兄さまのような見識を得られる絶好のチャンスだと思った。

私にはどの店がどう、という区別がつかなかった。
知っているのはブランドの名前と店だけだったから…何も分からなかった。
でも、お腹はどんどんすいていく。迷った挙句に、1番近い喫茶店に入ったの。

最近ではあまりない、木造の小さな喫茶店だった。私には狭いと感じた。
落ち着いた雰囲気が漂っていて、ほのかにコーヒーの香ばしい香りがして。
私にはコーヒーは飲めないけれど、とってもいい香りだと、心から思った。

私はまた、恥じることになった。
この店の木の質感、長年をぎりぎりでやりくりしているのだろう、という店の内装。
時計は少し傾いているし、絵も恐らく名もない絵描きのものでしょう。
けれど、今までのどの高級なものよりも、非常に高い価値を感じたから。

ブランドなんて、世間の印象に踊らされていた私が恥ずかしかった。どこまでも。
いいじゃない、そんな本音が口から漏れるほどに。とてもいい店だと思った。




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