過去ログ - 大学教授「私がアイドルのプロデューサーだと」
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17: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 12:53:31.46 ID:KMurB9r40
そう言うと、高木は苦笑して

「いや、済まない。年柄もなく急いてしまったよ。そう、君をアイドルのプロデューサーにしたいというのには私なりの理由があるのだ。まず君は素性が明らかだ。
アイドルをサポートするプロデューサーがアイドルを手篭めにしたりしてもらっては困るのでね。君と私の長い付き合いだ、その点について君は非常に安心できる。新しく若い男の中から誠実でティンと来る者を見つけるのは大層骨が折れることでね。君は私が知る者の中で最も誠実で教養ある人物なのだよ。
そして君は大学教授だ。たくさんの学生達を教え、導いてきた経験がある。
以下略



18: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 12:55:42.37 ID:KMurB9r40
私は、冷めてきたコーヒーを啜りながら彼の話に耳を傾けた。高校時代から突拍子もないことを言い出す人間であったが、よもや私にアイドルのプロデューサーになれ、と言いだすとは驚いたものだ。

「高木、私はもう50だ。この年まで学問一筋にやってきた。今更芸能界へ、それもアイドルのプロデューサーとして入ることなどできまい。
芸能界のことなどさっぱり分からないし、ましてや音楽やダンスなどの知識なぞ皆無だ。
お前のように体が元気な訳でもない。
以下略



19: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 12:58:11.86 ID:KMurB9r40
高木は嬉しそうに

「ああ。君には大学教授の職を辞して、私の新しい会社に来て欲しい」

「私は音楽やダンスなぞ分からん」
以下略



20: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 12:59:47.46 ID:KMurB9r40
そう言うと高木は一息ついて言った。

「高校時代を覚えているかね。すっかり昔の話だが」

当然だ。
以下略



21: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:31:36.57 ID:KMurB9r40
「君と出会ったのは2学年のころだったかね。いろいろあったものだが、卒業の日に君は一本のカセットテープをくれたろう」

憶えている。1970年代のことだ。ビートルズの時代が終わったころ、私は当時歌手を目指していた高木と一緒に、あるロックバンドを結成していたのだ。といっても、本当にやる気があったのは高木だけで、私を含めた他のメンバーは嫌々付き合っていたのだが。


22: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:32:59.70 ID:KMurB9r40
しかし、私は音楽のことなど全く分からないながらも高木の歌を聴いて彼は本物だと思った。
結局楽器すら調達出来ずにバンドは解散するのだが、作詞とドラムを担当することになっていた私は、高木に歌ってもらうために1つの詞を作った。
気恥ずかしくて渡すタイミングを失ったのを、最後になるからと自分で朗読して卒業の日に渡したのだ。当時は電話も何もかも不便だったから、手紙を書いたりカセットテープに声を吹き込んで別れの際に交換し合ったものだ。


23: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:34:31.41 ID:KMurB9r40
それから高木は歌手を目指して上京し、私は京都の大学へと進んだ。
もう30年以上前の話だ。
まさか今になってそんな恥ずかしい話をする訳でもあるまい。

「何が言いたい、高木」
以下略



24: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:35:37.31 ID:KMurB9r40
少し、驚いた。
私は今、何を感じたのだろう。まるで高校時代に戻ったかのようなあの感覚。あの時私の心を揺さぶった高木の歌が今、確かに聞こえた。


25: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:37:02.05 ID:KMurB9r40
少し、間が空いてしまった。私は冷え切ったコーヒーをかき混ぜながら

「つまり、私に作詞の才能はないということかね。デビュー曲、売れなかったんだろう」

高木は乾いた笑いを発してその場を濁した。
以下略



26: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:38:39.98 ID:KMurB9r40
「まあ、それはともかくとして。私は君と仕事がしたいのだよ。君は私がティンときた数少ない人間の一人だ。君のような人材を一から探すのは大変な苦労なのだよ」

どうやら高木は昔と変わっていないようだ。初めて会ったときも「ティンときた」などと言って話しかけてきたのだった。
その時のことがふと頭に甦り、変わったのは私なのかもしれないと思った。


27: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:39:51.65 ID:KMurB9r40
「しかし高木、お前がどんなに言おうとも私は大学教授を辞めるつもりはないよ。これは私の天職だ」

そう、私は大学教授という職業に誇りを持っている。学問一筋にひたすら精進を続け、大学教授になったのだ。
変わることは悪いことではない。私は今の立場に、十分満足しているのだから。


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