過去ログ - モバP「アイドルたちの奇妙なお話」
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4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/20(月) 23:45:37.81 ID:I96lWZFz0
「久美子、今日の撮影、スタッフの人たちみんな褒めてたよ。もちろん俺もよかったと思う」
「あ、本当? 前よりよくなってたかな」
「ああ。やっぱり水着の撮影は、これまで少し表情が固かったんだ。でも今回はかなりいい顔してたと思うよ」
「……へえ。グッときた?」
「グ、グッと!? おわっあぶねっ!」

 二人が乗るワンボックスカーの車体が、一瞬大きく対向車線へとはみ出す。すぐにハンドルを切り返してことなきを得て、
P安堵のため息。「運転中にそういう冗談はやめてくれ」と、力ない怨嗟を呟くのが精いっぱいだ。その情けないぼやきに
久美子は隣で「ごめん」と謝りながらも、その肩を小刻みに震わせている。彼女の中で、Pの動揺っぷりの面白さは命の危
険にも勝るらしかった。

 撮影の仕事の帰りである。アイドルを仕事場から家まで車で送る、というのがプロデューサー業に含まれるのかは定かで
ないが、Pは受け持つアイドルについては誰でもそうしている。律義といえば律義、面倒と言えば面倒な男だ。だがそうさ
れて本気で煙たがるアイドルなどいないのもまた事実で、だからPは担当アイドルの誰からも好かれ、信頼されているらしい。

「外すっかり暗いね。今日は朝からずっと仕事してた気がする」
「気がするじゃなくて実際そうだよ。最近はずっとこんな感じだな」
「……なんか不思議。少し前までは朝からずっとレッスンしてたよね」
「ああ、そうだな。最近はレッスンの時間が減って、仕事詰めだよな。……久美子、疲れてないか?」
「え? いきなりね、どうして?」
「いや、最近まとまった休みもあげれてないしさ。売れ出した今は大事な時だけど、体も大事にしないとってさ」

 舗装された道路の上でもたまに起こるゆるい揺れを心地よく感じながら、久美子はPの親心あふれる台詞に耳を傾けていた。
 心配性。そう文句を言ってやりたい意地悪な心と、ありがとう。素直にそう返したい乙女の気持ち。ないまぜに
なった気持ちを隠すように、久美子は運転席のPにそっぽを向く。目に入るのは車の窓ガラス。そこに映り込む自身の顔。

 前より。昨日より。キレイになれてるかな。鏡を見るたび、久美子はそれを考える。それはまた無意識のうちに、「Pと
出会ってから」という風に変換されていく。一番近くで、毎日のように見てくれる人がいる。キレイになっていく自分を
もっと見てほしい。そのためにキレイになる。いつからか、そう思うようになっていた。

「私は、全然大丈夫。まだまだ頑張れるって感じてるから」

 Pの言葉からかなり間を空けて、久美子は短くそう返す。窓ガラスに揺れる彼女の姿は、長い仕事の疲れなど感じさせない
瑞々しさと活気に溢れていた。


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