過去ログ - 魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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70: ◆1UOAiS.xYWtC[saga]
2013/05/25(土) 02:24:31.91 ID:QKtUJVFRo
その夜、魔王の討伐を記念して、城では豪奢な酒宴が行われた。

無意味な宴だった。
最大の『主賓』を欠いて、その仲間たちだけ。
魔物の脅威を真に知る者はなく、王侯貴族たちが豪勢な料理を前に大杯を乾し、語らう。
確かな歓喜の酒宴なのに、最も称えられるべき男は、そこにいない。

魔法使いはバルコニーに出た。
ひんやりとした空気が、ドレスに包まれた肢体を撫でる。
風はなく、夜空には三日月が下がっていた。
柵に寄り掛かって、眼下の庭園を見下ろしながらワイングラスを傾ける。
旅の道中で飲んだものよりはるかに上等なはずのそれが、妙に渋くて、酸っぱい。

振り返り、メインホールの中を見る。
戦士は、将軍達に何やら、熱心に口説かれているようだった。
憮然とした様子のままで、さして興味も無さそうに料理を食べながら話を聞いているようで、
眉をひそめあう将軍達の様子がおかしくてならない。
しまいには、皿を置いて酒を取りに向かって……途中で彼がこちらに気付いて、片眉を吊り上げて見せた。

「よろしいでしょうか……魔法使い様」

僧侶の姿を探そうとした時、左手側から、声をかけられて振り向く。

そこには――――『高貴』がいた。
収穫を待つ麦畑を思わせるような金髪が、頂いた白銀のティアラと競うように輝く。
磁器人形のように白くて滑らかな肌、目尻の下がった、朝もやの中の湖に似た、青い瞳。
身を包む装いは、月をほどいた糸で仕立て直したみたいに、美しい。
ただいるだけで周りの空気を黄金へと変えてしまいそうな、挿し絵が姿身を得たような、『お姫様』。
事実として『国王』を父に持つ、正真正銘の『王女』が、執事を伴って立っていた。

驚きもしなければ、敬意を表すような素振りも、示す気にはなれなかった。
それが、八つ当たりだと、分かってはいても。


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