過去ログ - 魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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71: ◆1UOAiS.xYWtC[saga]
2013/05/25(土) 02:25:10.25 ID:QKtUJVFRo
手に握ったグラスに、意識せずとも力が籠もった。
『楽しんでいますか』『この度は、おめでとうございます』『この国の民を代表して、感謝の意を――――』
そんな言葉が出て来たら、構わずにグラスの中身を顔めがけて引っかけてやるつもりだった。
例え、彼女の『父親』であろうとも、そこは譲らない。
譲らなかったからこそ――――バルコニーに一人で、誰も寄せ付けず、たそがれる事を選んだ。

魔法使い「何でしょうか? 王女さま」

どこか含みを持たせた言い方とともに、グラスを持つ手に力を注ぐ。
だがその手にこもった力は、すぐに解けることになった。

王女「……この度は、誠に痛み入ります」

彼女は、そう言った。
メインホールの中でゆるんだ笑顔を浮かべて歓談する貴族にも似ず。
大きな魚に逃げられ、苦虫を噛んだようにしかめっ面の軍人たちにも似ず。
心の底から、悼むような表情で――――そう、言った。

魔法使い「……こちらこそ、ね」

彼女の顔に浮かんだのが、紛れもない『哀しみ』だと分かったからこそ、素っ気ない言葉が出た。
何度かしか会った事は無いが――――女同士だからこそ、分かる事もある。
彼女は、決して……『救国の英雄』としてだけ勇者を見ていたわけではない事も、それだ。
そんな風に返すと、王女の身体が少し震えて、長い金髪が揺れた。

王女「大丈夫なのですか?」

魔法使い「『大丈夫』にならなきゃ。もう……いない、んだし」

死んだ――――とは、あれから数日が経つ今でも、口にしたくはなかった。
子供くさいこだわりだとしても、言葉にはできない。
まだ、認めて前へ進む事など考えられない。


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