過去ログ - 魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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88: ◆1UOAiS.xYWtC[saga]
2013/05/26(日) 02:33:36.10 ID:UMPAG6Zoo
王女「……私達は、『種』を植えましょう」

王女は、顔をわずかに俯けて、消え入りそうな声で呟いた。
その声は、恐らく民衆の最前列と、傍らの二人にしか聞こえていない。
しばらくドレスの裾を握ってから――彼女は、続けた。

王女「古くて大きな、朽ちかけてなお残る楔を抜きましょう。……勇者様がくれた、今この時。私達みんなで」

雨に打たれて震える小鳥のように、王女の肩は、震えていた。

王女「育てて食べる豆でもいい。心を癒すきれいな花でもいい。怒りとともに植えた、毒花の球根でもいい。
   でも……必ず、自分で育ててください。どこかの誰かに、任せたりしないで。
   ……もう一度、言わせてください」

堂々と、顔を上げた。
涙に濡れたその顔を、広場を埋め尽くし、通りの窓から身を乗り出し、何事かと耳をそばだてる国民に、
惜しげもなく見せつけてしまうかのように。
そして、もう一度だけ――――もう一度だけ、世界中の人々が待っていた言葉を。

王女「……魔王は、もう世界にいないのです。勇者様が、命と引き換えに……倒してくれました」

魔法使いと戦士は、いつしか、武器に添えた手を離していた。
もう、広場に警戒すべきものは無い。
聴衆は押し黙り、衛兵達も、うなだれていた。

王女「……今しか、ない。私達は、『勇者と魔王の物語』の終わりを機会として、生まれ変わりましょう。
   古い因習も、受け継いだ憎しみも消し去って。……『書』を、作り直しましょう」


演説が終わって、日が沈んだ頃。

魔法使いは、旅立ち――――『勇者の一行』は、解散した。


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